パンクショップ 666編【マニアが集う“注文の多すぎる洋品店”】


音楽とファッションは深い関係にある。ロッカーズ、パンク、モッズ、メタル、グラム、レゲエ……。音楽の中からファッションスタイルが生まれ、そのファッションが流行することで音楽をまた盛り上げてきた。

今回紹介する「666」は、1985年のオープン以来、日本においてパンクファッションを長年リードしてきたショップ。人気のパンクバンドの面々をはじめ、日本中のパンクスたちがいまなお日々、訪れる。

果たしてそんな日本を代表するパンクショップとはどんなお店なのか。また、長きにわたって支持されてきた秘密とは。ビートクルセイダースを経て、現在スターベムズのリーダーとして長年パンクスたちから熱視線を送られるヒダカこと、日高央氏とともにお店を訪れ取材した!

多くのミュージシャンたちから愛される パンクショップの先駆けに潜入!

666外観

 

ー日高さんが、初めて666を訪れたのはいつですか?

日高:90年代の半ばです。当時、渋谷にあるレコード会社に勤めていたんです。原宿は隣駅だからよく行ってて。はじめは、店員さんがゴリゴリのパンクスで、怖かったんですけど(笑)、その後もちょいちょい寄らせてもらっています。5年前はスターベムズのメンバーとカタログにも出させてもらいました。666のカタログには、これまでラフィンノーズのチャーミーさん、SAのナオキさん、ザ・クロマニヨンズの(甲本)ヒロトさん、あと怒髪天の増子(直純)さんとかパンクスの大先輩たちが出てるんですよ。なので、その時は俺もいっぱしのパンクスとして認められたかなって嬉しかったですね。

666:ありがとうございます。ウチのカタログはその時々で縁のある人に出ていただいてるんです。毎回、好評ですね。ネットでも見ることは可能なんですけど、今もカタログを手に買い物に来られる方も多いです。

日高:俺も昔は、雑誌に出ているチャーミーさんのファッションに憧れましたから、カタログを見て、買い物に来る人の気持ちはわかります。

 

9月に発行された最新カタログ

昨年9月に発行された最新カタログ。モデルにはザ・ワンダフルワールドのジョー・アルコール、マッド3のエディーレジェンドや注目のガールズパンクバンド、ステファニーズなどが登場。

 

ー日高さんは666に来ると、何からチェックするんですか?

日高:スタッズベルトですね。

ーベルト!ちょっと意外です!中でもどれを?

日高:やはり黒白の2連ピラミッドベルトが定番でオススメかな。666のものはスタッズの質がいいんです。ライブでもつけるけど一度も取れたことがない! 素晴らしい! 唯一の難点は飛行機に乗る時は金属探知機にひっかかるから、それが面倒臭いけど(笑)。

 

スタッズベルト(2)

ボンデージパンツを物色する日高さん。「昔、チャーミーさんのガーゼシャツ、ボンデージパンツ、ドクターマーチンのブーツってスタイルに憧れたんですよね~」

 

666:レザーものにつけるスタッズは国内でハンドメイド生産をしています。単品でも売っているので、自分でも付けていただけます。


スタッズベルト(1)スタッズ(1)

左:各種揃ったベルトは8,000円から。「スタッズベルトを巻いて、その上からリングベルトを巻くとさらにかっこよくなる。パンクファッション上級者のスタイルです」(日高さん)。右:オリジナルのスタッズは、ピラミッド、コーン、スカルまでさまざまな形のものが。すべて国内生産のメイドインジャパン。(10個/400円~)

 

日高:他にチェックするのは、バンT(バンドTシャツ)。こちらにはベーシックなパンクバンドのものが揃ってますからね。ちなみに最近、パンクを聴き始めた若者はここのTシャツを見て、デザインが気に入ったものから聴くのもありです。

666:御三家(セックスピストルズ、クラッシュ、ダムド)やラモーンズのような定番から、ブラックフラッグやサークル・ジャークスのようなアメリカンパンクのものもありますね。

ー日高さんのオススメは?

日高:
ジェネレーションXです(即答)。70年代ロンドンの人気バンドなんだけどデザインがよくて。ビートクルセイダースの頃は自分でもよく着てました。Tシャツといえば、パンクファッションのパイオニア、セディショナリーズの復刻ものもチェックします。これはプリントがいいので、パンクに関係なく純粋に洋服としても楽しめます。


Tシャツ(1)Tシャツ(2)Tシャツ(3)

日高さんチョイスのTシャツ3連発!
シンプルながらも色使いが見事なジェネレーションX!(3,500円)、セックスピストルズの映画「ネバーマインドボロックス」のTシャツ。パンクなバンビがチャーミング!(3,500円)、センセーショナルなデザインが人気のセディショナリーズの復刻(4,800円)。
豊富なバンドTシャツは、すべてアメリカからのインポートだが、日本製に近いサイズ感のものを取り揃えている。

 

日高:あとはやっぱりライダース。こちらのオリジナルは、パンクスのマストアイテムですよ。

666:ありがとうございます。ライダースはうちのメイン商品です。オープン時はロンドンで買い付けていましたが、いまはすべてオリジナルで、UKタイプ、アメリカンタイプ、ダブル、シングルあと女性用など、各種取り揃えています。また裏地も赤とかタータンとかオプションで選べます。

日高:俺も666のUKモデルを持ってますよ。着るとわかるけどフィット感がすごくいいんですよね。

 

ライダース(2)

666を代表するUKスタイルのライダース(83,000円)。ダブルのサイドベルトタイプでタイトフィット。襟やポケットの位置など時代に合わせてデザインもアップデートされている。

 

666:ウチのは日本人の体型に合わせて作っているんです。襟のサイズや袖の長さ、角度など細かく作り込んでいますね。

ーライダースの着こなしのコツってありますか?

日高:
エリを立てるとかっこいいですよ。シド(・ヴィシャス)もヒロトさんもそうしてる。一度、着比べてみてほしいですね。

 

音楽とファッション、時代とともに進化し続けるパンクシーン!


ーそもそも、666はどんな風に始まったんですか。

666:
1980年前後にロンドンにわたった、ウチのオーナーが現地のファッションに刺激を受け、帰国後、83年に大阪心斎橋に前身のロンドンファッションのお店『FACE』をオープンしました。そして85年にやはり心斎橋にパンクに特化した『666』をオープンさせました。当時は全商品をロンドンから輸入していましたね。当時の日本でパンクアイテムを置いているお店はほとんどなかったのですごく反響があって、87年には原宿に東京店をオープンしました。

ー85年前後というと日高さんは中高生ですよね。やはりパンクファッションをしていました?

日高:すごく憧れてたけど、やっぱり近くに売ってなかったし、お金もなかったからね。せいぜいダイエーで買った迷彩柄のシャツ、何本も安全ピンをつけた、おばちゃん用のチェックパンツに安全靴(笑)。あとそれっぽく見えるよう、Tシャツをカットしたり。

ーカットオフのTシャツは、マーシー(真島昌利)さんがブルーハーツの頃からよく着てましたよね。​​​​​​​

日高:
そうそう。でも、カットオフするのって意外に難しいんですよね。首回りとか深く切りすぎて、女の子モノみたくなったりしました(笑)。​​​​​​​

ーお店はオープンから30年以上経つわけですが、これまでで印象に残った出来事というと?​​​​​​​​​​​​​​

​​​​​​​666:
オープン記念に、親交のあるカオスUKのジャパンツアーを組んだことですね。その時はオーナーの兄がセルフィッシュレコードというインディーレーベルをやってて、当時所属していたガーゼやリップクリーム、OUTOなどが出演しました。私はまだ入社していませんでしたが相当、盛り上がったようです。​​​​​​​​​​​​​​


日高:すごいラインナップですね。 日英ハードコアパンクのスーパーレジェンドばかりです!

666:当時、カオスUKがスエーデン軍のバンダリア(ポケットが複数ついたウエストポーチ)を腰に巻いていたんですけど、ライブを見た日本のハードコアファンたちによってすごく流行ったようですよ。

 

アクセサリー(1)アクセサリー(2)

バッジ(250円~)、サングラス(1200円~)、リストバンド(300円~)などアクセサリーも多種。眺めているだけで楽しい! イギリスのメーカー、ジョージ・コックスのラバーソウル・シューズ(48000円~)のラインナップの中には、ジョニーロットンが履いていたモデルもある。

 

ー当時の人気商品で他にはどんなものがあったんですか?

666:
ドクターマーチンのブーツやウェンディーズのスタッズ・ベルト、あとジョージ・コックスのラバーソウルとかは売れました。あとルイスレザーのライダースも以前はウチが日本の代理店として販売していました。

日高:東京でいえば、お店の場所が原宿なのがいいですよね。ローラー族から裏原まで、音楽とファッションが常に結びついて流行を産む場所ですから。特に80年代後半のバンドブームの頃は、ホコ天もあったし、相当のパンクスがこちらに立ち寄ってましたよね。

ーちなみに日高さんが考えるパンクファッションの魅力はどこですか?

日高:
うーん、なんだろうな。いなたいアメリカンなメタル・ファッションと違って洗練されている事と、あとは政治的、社会的なメッセージがプリントに込められているので自分のアティチュードを表明するのに最適なことですね。それかなり重要です。​​​​​​​

ー外側だけでなく、内面もアピールするものだと。それにしても先ほどから見ていて気づいたんですが、商品によっては昔は置いて​​​​​​​なかったものがけっこうありますね。たとえばネオンカラーのリストバンドとか。​​​​​​​

666:
そうですね。……と言いますか、ウチにある商品は大半が新しいものなんですよ。​​​​​​​

ーといいますと?​​​​​​​

666:
たとえば定番のライダースにしても、シルエットやサイズ感は昔のものとは微妙ですが違います。ブラックスリムジーンズもそうです。時代的にタイトなものが流行ればタイトになるし、逆の時もある。あるいは股上が浅くなったり、逆に深くなったり。常にその時々の気分、時代感を意識して変わっているんです。

日高:言われてみればTシャツもそうですよね。いまのはひと昔前のものに比べるとタイトだし、丈も短いし。​​​​​​​

 

ヒップフラップ

チェックのヒップフラップ(3800円)。ポケット型になっていて便利。これで大混雑のライブハウスでも手ぶらでいける!

 

ーパンクファッションって、長年にわたって当たり前のようにあるから、こちらのお店も、ずっと同じものを置いていると思ってたんですが違うんですね。

666:
もちろん変わらずにそのままのものもあります。でも変わっていくからこそ、お客さんも絶えず立ち寄ってくれたんだと思うんですよね。​​​​​​​

ーちょっと大げさな言い方をすると、パンクファッションが今でもあるのは、常に時代を意識してきたからというか。​​​​​​​

666:
そうですね。お店には音楽に興味のない、洋服好きの人もいらっしゃいますけど、それはそれぞれのアイテムに“時代”を感じてくれてるからだと思うんです。​​​​​​​

日高:そういう意味では​​​​​​​音楽のパンクも一緒ですよ。昔ながらのド直球なパンクを演るにしても、リズムや音響を変えることで、今の音として新鮮に聞こえる。だからいまだにパンクというジャンルが続いているというか。もちろん自分たちも常に新しさを意識して、パンクをやっています。​​​​​​​​​​​​​​


ー最後に伺いたいんですが、「666」という店名の由来は?

666:
「ROCK、ROCK、ROCK」です。非常にわかりやすいというか……。

日高:すごくストレートですね(笑)。でもだからこそ強いというか。新しいパンクの空気を感じに、今後もちょくちょく寄らせていただきますよ!

 

666内観

 


【SHOP INFO】
● 666 HARAJUKU
東京都渋谷区神宮前4-28-12 ジャスト原宿2F
☎︎03-5411-0988
営業時間 11:00〜20:00
定休日 無休
http://www.666jp.com/​​​​​​​

 

【PROFILE】
日高央
http://www.thestarbems.com/
https://mysound.jp/art/137802/


1968年生まれ。千葉県出身。元BEAT CRUSADERSのギター、ボーカル。2010年の解散後、MONOBRIGHT、ヒダカトオルとフェッドミュージック、TV MURDERS(カジヒデキ、イナザワアヒト、堂島孝平)など、数々の音楽プロジェクトに参画。木村カエラ、栗山千明、BiS、高橋瞳、メロン記念日ら女性アーティストへの楽曲提供から、住所不定無職、セカイイチ、GOING UNDER GROUNDなどのバンドプロデュースまで幅広く手がける。


Text:大野 智己
Photo:渡邊 眞朗


音楽マニアが店長を務め、いつしかその熱気に魅せられたマニアたちが集うようになった飲食店のルポ。
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