【後編】ジャムセッションに行こう!憧れのジャズに挑戦


いよいよセッションデビューをする2人。アド美はフランク・シナトラの歌で大ヒットしたジャズの人気スタンダードナンバー「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」を、リブ子はチャップリンの映画『モダン・タイムス』のテーマ曲「スマイル」をデビュー曲に決め、楽譜も用意して準備は万全。K先生からジャズの基本のキも学んだし……。しかしやはり百聞は一験!?に如かず(1回しか聞いてないけど)で、実際にセッションをしてみると、「??」なことがいろいろ出てくるようで。

 

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いよいよセッションデビュー!!


セッション前にも練習をし、午後7時の開始時間を少し過ぎてライブハウスに到着したアド美とリブ子。お店に入ると最初のセッションを始めようか、というタイミングだった。

ホストを務めるのはベース&ピアノ奏者の中野さん。なお「ホスト」あるいは「セッションホスト」は、セッションにおいて司会進行や伴奏を務める人のこと。参加者はトランペット1名、ピアノ2名(のちにもう1名加わって計3名)、ドラム1名。それにギターのアド美とオーボエのリブ子が加わる形だ。参加費を払って受付を済ませ、1ドリンクを受け取ると、初心者同士のセッションということもあってか、それぞれ簡単に自己紹介をする。

このお店は事前にインターネットに名前とパートを書いて予約をし、受付順に演奏したい曲を言っていく形式だったが、お店によっては当日受付で名前・パート・演奏したい曲を書いて参加するところもあるようだ。

 

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ホストの中野さん。見た目通りとっても優しい方でした!

 

席に座って楽器の準備をしていると、ホストから「もういけますか?」との声がかかる。リブ子はオーボエのリードの準備中で「ま、まだです」とあたふたするが、アド美は準備完了。やりたい曲として「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」を挙げ、ステージに向かう。

ホストのベース、ドラム、ピアノの他トランペットも呼ばれ、いよいよ演奏開始。イントロ→テーマ→ソロ……おぉ!K先生に教わったジャズの基本通りに進んでいる。

トランペットに続きアド美のギターにソロが回ってきた。うん、ジャズっぽいよ! セッションしてるよ!と感動するリブ子。あとからアド美が、「途中でちょっと見失って~」と言っていたケド、ベースとピアノがコードをきっちり進めているので、気づかなかった。

そしてギターからピアノ、ベースとソロが続いた後。ホストから「4バース!」という指示が。「え?4バース?何?」とアド美が明らかにとまどっているし、リブ子も予想外の展開に成り行きを見守っていると、どうやらドラムとソロ楽器を4小節ずつ交代で回しているみたい。


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◎K先生のセッションで使えるワンポ  イント
「4バース」

テーマに戻る前、ドラムの見せ場を作るために、楽器ソロ4小節→ドラムソロ4小節→楽器ソロ4小節→ドラムソロ4小節……と「4バース(4小節のこと)」というやりとりをすることもあります。



「4バース」で、盛り上がりは最高潮。そのあとテーマを演奏して曲が終わった。
続いていよいよリブ子の番。「スマイル」と告げると、「ほぉ」というような反応が返ってくる。有名な曲だけれど、こういうセッションで取り上げられることは珍しいのだろうか。実はこの曲、吹奏楽部員ならほぼ全員知っていると思われる「ニュー・サウンズ・イン・ブラス」(ヤマハミュージックメディア)という曲集から、バンドとオーボエのための「スマイル」という曲名で、オーボエのソロ曲としてアレンジされた譜面が出ている。

オーボエがめちゃくちゃ魅力的で技術も要するこの曲をリブ子は演奏したことがなく、吹いてみたいという憧れをこのセッションでかなえようという魂胆があった。しかし10年超というブランクは「メロディだけならなんとかなるでしょ」との考えを見事に砕き、思い通りにならない指使いや音程に悪戦苦闘……。でもでもなんてセッションって楽しいんだろう! 曲が進むにつれ、「ちょっとアドリブっぽく吹いてみたい」などという欲がムクムクと湧いてきて(実際はできなかったが)、演奏レベルはさておき、とても爽快な気分だった。

♪ニュー・サウンズ・イン・ブラス「スマイル」
(音源)
https://mysound.jp/song/951392/

(楽譜)
https://www.ymm.co.jp/p/detail.php?code=GTW257830

 

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ジャズのセッションの必須アイテム


その後も参加者に順番に声がかかり、おのおのやりたい曲を伝える。そして他にも参加したい人を募るのだけれど、ピアノ、ベース、ドラムはセッションをする上で必須の楽器だから、出ないという選択肢はないみたい。複数人いるピアノは交代しているが、一人しかいないドラムのお姉さんはずっと出ずっぱりだ。

あ、『酒とバラの日々』は聞いたことがあるぞ。次は『ストールン・モーメンツ』?? 知らなかったけどスタンダードナンバーのようだ。参加できますか、というように声をかけていただくけれど、知らない曲だし、そもそも楽譜もないし……と、先ほどから曲が決まるたびに、参加者が一斉に同じような楽譜集をめくったり、携帯を見たりしている。

聞くと、楽譜集は通称「黒本」と呼ばれている『ジャズ・スタンダード・バイブル』で、携帯のほうは「iReal pro(アイリアルプロ)」という有料アプリとのこと。どちらもジャズのセッションに参加するなら必須のアイテムらしい(そういえばK先生から聞いた気もする…)。

 

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◎K先生のセッションで使えるワンポイント
「便利アイテム」

セッションで使われることが多い一冊。定番のジャズ・スタンダード227曲を厳選した楽譜集。
『ジャズ・スタンダード・バイブル~セッションに役立つ不朽の227曲』
納 浩一著/リットーミュージック
https://www.rittor-music.co.jp/product/detail/3109417213/

1000曲以上の有名曲のコード進行をダウンロードでき、セッションでとても便利なアプリ。マイナスワン(メロディパート抜きの伴奏)も流せる。
iReal pro
https://itunes.apple.com/jp/app/ireal-pro/id298206806?mt=8



セッション最高!


初めて参加した私たちのために、ホストの中野さんが「最後に2人で一緒にセッションしましょう」と声をかけてくれた。曲はもう一度「フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン」と「スマイル」。アド美はソロとバッキングを演奏、リブ子はテーマを吹く。アド美が「リブ子、もっと乗って楽しんで!」と声をかける。そう、リブ子はちゃんと吹けるかどうかばかり気になり、ガチガチに緊張していたのだ。そうだ、せっかくセッションに来たのだから、もう演奏レベル云々を考えるのはやめて楽しもう。

途中、まだ私たちの知らない「セッションのお約束事(?)」も出てきた。
ソロが何度も繰り返されたあと、ホストが自分の頭の上をポンポンとする。これは「テーマに戻って」という合図という。

また、ベースのソロになったとき、アド美がドラムからの強い視線を感じ「これはバッキングを続けるのか?やめるのか?」と、うろたえていた。正解は「弾くのやめて」だったらしい……ベースがソロを取るときには、ベースの音が目立つよう、周りは最低限のコードのみ押さえるのだそう。ドラムもスティックではなく、ほうきのような「ブラシ」を使って、静かにシャワシャワと音を出していた。

 

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みんなで演奏して盛り上がってそしてエンディング。楽譜にある音符しか吹けないリブ子のために、ホストの中野さんがコードを「シの音!」「レ!」と教えてくれて、これぞセッション!という楽しみを味わわせてくれた。

スリリングな場面も多々ありはしたものの「まだまだセッションなんて……」と臆病にならずに、勢いで飛び込んでみて良かった! そんなことを2人で話しながら、「またセッションに行こう」と心に誓うのだった。

 

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◎K先生のセッションで使えるワンポイント
 「セッションデビューにおすすめの5曲」

1)ブルースの曲
例…「C Jam Blues」「Billie's Bounce」「Blue Monk」「Sonny Moon For Two」など
「ブルース」とは、とにかく12小節で成立しているジャズの定番ともいえるフォームの曲の総称です。「ジャズはブルースに始まり、ブルースに終わる」といわれるほどですから、ブルースなしのセッションは考えられないでしょう。

2)Autumn Leaves(枯葉)
これも初心者なら絶対に避けて通れない曲かと思います。僕自身、初心者のころセッションにいったとき、この曲のコード進行を覚えていなくて、先輩から「枯葉も知らないのか!」と叱責された記憶があります。

3)Rhythm Change(リズムチェンジ)
例…「Oleo」「Anthropology」」「Rhythm-A-Ning(リズマニング)」など
32小節の曲で、コードがぐるぐる循環しているように感じる、いわゆる循環コード進行のため、日本では総じて「循環」と呼ばれています。アメリカでは、これらの曲はガーシュイン作曲の「I Got A Rhythm」のコード進行を使ってメロディだけ変えたものなので、「Rhythm Change」という総称で呼ばれます。ジャズのセッションでは必ず一度は演奏されるような定番といえます。

4)Bye Bye Blackbird
僕がジャズのレッスンの時にまず最初に題材として使う曲です。実はそう簡単ではないのですが、理論的にも多くのジャズ的要素が入っているので、ジャズを勉強する上で良い題材になると思います。マイルス・デイヴィスの演奏でも有名。

5)Take The A Train (A列車で行こう)
「じゃあ今日のジャムセッション、最後に全員参加で、楽しい曲で終わりましょう!」みたいな締めの時によく演奏されます。ジャズといえばNY、そしてジャズといえばデューク・エリントン、というようなところの代表曲ですが、ジャズのスイング感の楽しさを良く表している曲です。



監修:納 浩一(おさむ・こういち)ベース
https://www.osamukoichi.net/
京都大学卒業後バークリー音楽大学に留学。1985、86年度のバークリー・エディ・ゴメス・アウォード受賞。『ジャズスタンダード・バイブル1・2』(通称:黒本/リットーミュージック)ほか書籍・教則DVDの出版多数。以前ヤマハ銀座スタジオで開催されていた「GINZA de JAZZ セッション」ではホストリーダーを務めたセッションの達人。


取材協力:東京倶楽部
おもにジャズ系のセッションを開催しているライブバー。ボーカル向け、楽器奏者向けのセッションや、クリニックなど多彩なコースが用意されている。本郷、目黒、水道橋に3店舗がある。
https://tokyo-club.com/session/

 

Text:ひとま舎
Photo:bozzo
Illustration:津田蘭子