「ブラスト!」出演、世界的ドラマー・石川直が刻む音空間

HEW

 

音楽集団「ブラスト!」は、驚異的な演奏力や華麗なダンスパフォーマンスで観客を楽しませるアメリカ発のエンターテインメントチーム。昨年から始まったディズニー音楽を融合させる舞台「ブラスト!:ミュージック・オブ・ディズニー」が、今年も日本で7月から開催されます。2000年から日本人初の「ブラスト!」メンバーとして所属し、舞台の要を務めるドラマー/パーカッショニストの石川直(なおき)も引き続き出演。超絶テクニックの持ち主でもある石川直が鳴らす音の世界は、どのように広がっていくのでしょうか?

 

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音が一つになる瞬間に魅せられて

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―楽器演奏を始めたきっかけは何だったのでしょうか?

僕は、14歳のときに父親の仕事の関係で家族ごとアメリカに引っ越しました。最初は英語が話せなかったので、言葉が理解できなくても楽しめそうな音楽をやってみることにしたんです。いくつか楽器を演奏してみて一番自分に向いてると思ったのが、ドラム音楽でした。それからアメリカのマーチングバンドにすっかりのめり込んでしまい、大学までマーチングバンドを続けました。

―“マーチングバンド”に惹かれた理由は何ですか?

演奏しているときの爽快感ですね。もともと性格的にじっとしていられなかったんです。1歳頃から大きな建物の中に入ると、「はっ!はっ!」と声を出して建物の中に響く自分の声を楽しんでいたみたいです。地面に下ろされると、どこかに走っていって戻って来ると常に棒を持っていたらしくて……。僕は、棒を持って音を出しながら走り回るために生まれてきたのかもしれません(笑)。

―石川さんにとって、マーチングバンドの魅力とは何でしょうか?

マーチングバンドは、大勢で一斉に楽器を演奏しながら行進するなど、一つの集団として演奏と動きの両方が重要です。たくさんの人数で演奏しても「パン!」と音が一つにそろう瞬間があるんですが、そのときの空気には、きっと普段は起こらないような振動が生まれていると思うんです。その瞬間がとてつもなく気持ちいいですね。自分たちの身体能力や演奏力、技術力に音楽性までも最大限に駆使して、100人近くの仲間と一斉にエネルギーを放出し合っている瞬間は、何物にも代えがたいです。僕はパーカッショニストとして、根底にあるリズムをコントロールする役目を担っています。音は空気の振動なのでカッコよく言うと、空気を支配するというか(笑)、空間を“どれだけいい波長とタイミングと揺らし方で埋めるのか”を考えながら、音楽をお客さんに届けています。
 

「ブラスト!」入団は“賭け”だった


―学生時代に活動していたマーチングバンドから「ブラスト!」への入団は、どのように繋がったのでしょうか?

アメリカに12年ほど暮らしていたんですが、自分の中でアメリカは「経験を積む場所」であって、「暮らす場所」という意識はありませんでした。ずっと心の奥底では、「いつ日本に帰ろうか」と考えていたんです。でも、僕が大学を卒業した2000年頃はマーチングバンドの技術を身につけていても、日本での仕事は指導者ぐらいしかありませんでした。自分の経験を活かして生活するためにはどうしたらいいのか考えていたときに、タイミングよく「ブラスト!」からオーディションの声がかかりました。ちょうどアジアツアーの企画が持ち上がっていたので、「仕事で日本に帰れるぞ」と思ったんです。自分がやってきたことをエンターテインメント化して、プロの集団としてやっている「ブラスト!」が、「日本に行く」という可能性に賭けてみようと思いました。僕は2000年に入団したんですが、運よく2003年から日本ツアーもスタートしたんです。

―学生時代から、パーカッショニストとして世界的な音楽賞で優勝するほど評価されていますが、楽器初心者の頃の思い出を教えてください。

当時僕はまだアメリカの高校生だったんですが、練習で帰りが遅くなると母が車で学校へ迎えに来てくれました。僕は車の助手席に座ってからも練習モードが抜けなくて、母の隣でダッシュボードを叩きまくっていましたね(笑)。良く言えば、すっかり夢中になっていたんですが、母から「うるさい!」と怒られながら家路に着いていたことをよく覚えています。今では僕の演奏を皆さんに楽しんでもらえるようになったので、母も喜んでくれています(笑)。


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©Yow Kobayashi
 

出演者が教える「ブラスト!」の楽しみ方


―何カ月にも渡ってツアーが行われますが、公演中はどうやってモチベーションを保っているのでしょうか?

まずは“覚悟を決める”ことですね。心身共にハードですが、好きな仲間たちと一緒に各地を回れるのは最高です。特に日本公演は47都道府県回れるので、日本人キャストとしてもすごく魅力的です。アメリカ人キャストたちも日本のことをリスペクトしてくれているので、彼らをおいしいラーメン屋に連れて行ったり、お寺に連れて行ったりするのも楽しみです。リハーサル終わりには、みんなでコンビニに行って「チューハイ・ウォーク・ナイトやろう」なんて言って、缶チューハイを飲みながらホテルまで歩いて帰ったりもしています。オンもオフもみんなで時間を共有して、アホなことばかり言い合いながら(笑)、お互いに愛情とリスペクトを持ったチームメンバーなので、本当にいい仲間たちです。

―2部構成の間に行うインターミッション(休憩時間)では、ロビーなどで演奏を披露して、外国人キャストが日本語でギャグを言ったりしながら、盛り上がっていますが…

あれはメンバー紹介をするときに、片言でも日本語で話した方が親しみを持ってもらえるだろうということで、どんどん悪ノリしちゃった結果です(笑)。インターミッションでお客さんとコミュニケーションをとるのは、日本で始まったんです。アメリカでは、日本のようにお客さんが僕らの周りに集まってきません。「ブラスト!」は、もともと青少年に、教育の機会を提供するために作られた集団なので、若者を応援する気持ちで見に来る大人たちが多いんです。インターミッションのときは、大人たちがロビーでお酒を飲んだりしながら、僕らのパフォーマンスを遠目で見ていて、ときどき拍手してくれる程度です。日本では、休憩中にキャストたちとお客さんが気さくなコミュニケーションをとれる場になっているので、ホームパーティーを開いているような感覚でやっています。

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©Yow Kobayashi
 

―7月から始まる公演で特に注目なのは、どんな所でしょうか?

今回は、旬のディズニー音楽を取り入れています。今年日本で公開された映画『モアナと伝説の海』や、日本でも大ヒットしている実写版映画『美女と野獣』の楽曲などです。ほっこりする曲や勇気付けられる曲を、超絶技巧と演奏の統一美で、空間作りしていきます。ぜひ魔法がかった時間と空間を体感してほしいです。

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Presentation made under license from Disney Concerts © Disney All rights reserved
 

―「ブラスト!」を最大限に楽しむポイントを教えてください!

僕らは褒められて伸びるタイプの集団です(笑)。お客さんの歓声が上がると、さらにテンションが上がって僕たちもさらにお客さんを楽しませることができると思います。良いパフォーマンスだと思ったら、演者に声をかけたり立ち上がったりしてもOKです。スポーツ観戦をする感覚で楽しんでいただきたいです。お客さんのリアクションあってこそ、「ブラスト!」の真の価値が生まれます。リハーサル中に僕らがパフォーマンスしているのは、スタジオの壁相手ですからね(笑)。ぜひリラックスして一緒に楽しんでほしいです。

 

ビートの未来はこの先どうなる?

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―石川さんは「ブラスト!」だけではなく、日本のアーティストの舞台出演もするなど、幅広い音楽性で活躍されていますが、普段はどんな音楽を聞いているんですか?

僕は美味しければ食べるという感覚で音楽を聞いているので、ジャンルへのこだわりは、まったくありません。ポップスから電子音楽、イスラエルの修道院の音楽や南米にインド、アイルランドなど、いろんな文化の音楽を聞いています。最近は、ティグラン・ハマシアンというアーティストが特におもしろいと思っています。アルメニアの民族音楽にジャズとロックのテイストを混ぜて、エレクトロをぶち込んだような音なんです。ミュージシャンだけではなく、大学教授たちが研究目的のために作るような音楽も、おもしろいと思っています。新しい音楽が生まれる方法や発想の部分、聞き心地の良さに魅力を感じることも多いです。

―今までにあらゆる種類のビートを演奏してきていらっしゃいますが、ビートの未来はこの先どうなっていくと思いますか?

基本的なビートは、今までにほぼ出尽くしてると思うんです。それぞれいろんな音楽が組み合わさって、新しい音楽のパターンが作られていますが、「それぞれ伝統的に受け継がれてきている民族音楽が持つビートに勝るものはあるのかな?」と思ったりもしています。もうやっている人もいると思いますが、ある文化の音楽が持っているリズムや数学的に捉えたリズム、心理学や脳科学から考えられたリズムの配列パターンなどを組み合わせて、新たな音のグルーヴが生まれるかもしれないですね。自分でも新しいビートを作ってみたいです。

―今後、力を入れていきたい活動は何ですか?

僕が関わる人たちと一緒にポジティブな経験を積んで、良い影響力を広げていきたいです。それぞれが持つ特殊な感覚や経験を活かして、そういう人たちと力を合わせて壁にぶつかってもクリアしていきたい。すべてはクリエイション(創作)だと思っています。自分たちが創り出す新しい音楽やムーブメントが、たくさんの人たちを前に進めるエネルギーとなってくれたら、すごくやりがいがあって幸せですね。あとは、若い子たちも僕たちの将来の良い仲間になってほしいです。そのためにも、若手の指導に力を入れています。そういうことを続けていけば、たぶん僕は笑って棺桶に入れるんじゃないかと思っています(笑)。

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■「ブラスト!:ミュージック・オブ・ディズニー」
http://www.blast-tour.jp/
7月9日(日)山形「シェルターなんようホール(南陽市文化会館)」(プレビュー公演)から全国ツアーをスタート。

■石川 直
http://naokiishikawa.com/


Interview&Text:岩木 理恵(HEW)
Interview Photos:yu.tsutano

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