ロック史を創ってきた者たち 世界が愛したギターヒーロー名鑑 vol.10 キース・リチャーズ【Go!Go! GUITAR プレイバック】

永遠の不良少年、その実は勇往邁進するロック界の重鎮
ギターの可能性を広げてくれたギターヒーローにスポットを当てて紹介するコーナーの第10回。今回取り上げるのは言わずと知れたザ・ローリング・ストーンズのギタリスト、キース・リチャーズだ。
文/平川理雄 マンガ/dobby
■ ミック・ジャガーと運命の出会い
本名、キース・リチャーズ。1943年12月18日、イングランドのケント州ダートフォード生まれ。小学校では、ミック・ジャガーと同級生だった(中学からは別の学校)。
母方の祖父がミュージシャンであったことから、13歳のときに彼からギターをプレゼントされる。当時のヒーローは、エルヴィス・プレスリーのバンドのスコティ・ムーア(Gt)で、そこからブルースやR&Bにハマる。
高校生の頃、駅のホームでミックと運命的な再会をし、お互いがR&B好きだとわかると、バンド結成を構想。ディック・テイラー(B)と共に“リトル・ボーイズ&ザ・ブルー・ボーイズ”を結成。
■ “ザ・ローリング・ストーンズ”誕生
その後ミックと共にロンドンに移り、ライブハウスで知り合ったブライアン・ジョーンズ(Gt)と3人で暮らし始める。バンド活動の中にビル・ワイマン(B)やチャーリー・ワッツ(Ds)も加わったが、そんな彼らの音楽を聴いてデビューさせるように進言したのが、すでに第一線で活躍していたザ・ビートルズ。ザ・ローリング・ストーンズとして’63年にシングル「カム・オン」(チャック・ベリーのカバー)でデビューした。当時のキースの名前は、リトル・リチャードやクリフ・リチャードに合わせて「キース・リチャード」(’ 70 年代に本名に戻す)。ストーンズはアイドル的な人気のビートルズに対して“不良の象徴”という対立軸上で共に大人気になるものの、実際キースやメンバーたちはドラッグで逮捕されることもしばしば。現在キースは薬物を絶ち、活動を継続している。
■ ソロ活動、映画出演へ
’78年には「ハーダー・ゼイ・カム」でソロ・デビュー。’86年にはチャック・ベリーのドキュメンタリー映画『ヘイル!ヘイル!ロックンロール』を製作すると、この映画で共演したメンバーと結成したバンド、エクスペンシヴ・ワイノーズを率いてソロ・アルバム『トーク・イズ・チープ』をリリースした(’87年)。また、映画『パイレーツ・オブ・カリビアン』のジョニー・デップ演じるジャック・スパロウはキースをモデルとしており、3作目以降ではそのキース本人がジャックの父役で出演している。
■ キース・リチャーズ年表
1943 イングランドのケント州ダートフォードに生まれる。小学校時代の同級生、ミック・ジャガーとは後にザ・ローリング・ストーンズで活動を共にすることに。
1962 ミック・ジャガーと共にザ・ローリング・ストーンズを結成。翌年、チャック・ベリーのカバー曲『カム・オン』でシングルデビュー。
1964 1stアルバム『ザ・ローリング・ストーンズ』をリリース。見事に全英1位を獲得。
1969 メンバーのブライアン・ジョーンズが謎の死を遂げる。この年にリリースのアルバム『レット・イット・ブリード』は、過渡期を迎えたストーンズにおける傑作と位置づけられている。
1971 70年代ストーンズの幕開けを飾るアルバム『スティッキー・フィンガーズ』をリリース。1曲目「ブラウン・シュガー」でもオープンGチューニングによるゴキゲンなリフが聴ける。翌72年にはアルバム『メイン・ストリートのならず者』をリリース。
1978 チャック・ベリーのカバー曲「ハーダー・ゼイ・カム」でソロデビュー。
1986 チャック・ベリーのドキュメンタリー映画『ヘイル!ヘイル!ロックンロール』で共演したメンバーと共にバンド、エクスペンシヴ・ワイノーズを結成。
2007 映画『パイレーツ・オブ・カリビアン/ワールドエンド』にジャック・スパロウの父親役として出演。
■ ギター&アンプ
ギターは、活動開始当時はHarmony Meteorを使用。’60年代に’59年製ギブソン・レスポールを、’70年代以降は数本のフェンダー・テレキャスター(’53年製、通称“ミカウバー”や’54年製、通称“マルコム”など)をメインとしている。このテレキャスターが特殊で、6弦を取り外した5本弦でオープンG(1弦からDBGDG)にチューニングされてる。またソロ期以降にはミュージックマン・シルエット、ギブソン・レスポールJr.、ES-355s、ES-345なども使用している。
アンプはメサ・ブギーMark 1、フェンダー・ツイン(クリーン用)、デュアル・ショーマン(歪み用)、他にもVoxやHiwattなどを使い分けている。
使用エフェクターで有名なのはギブソン・マエストロ・ファズボックス。「サティスファクション」で使用したところ、世界的にファズが売れるようになったのは有名。他にはペダル・ワウ、MXRフェイザー、レスリー・スピーカーなどを使うことはあるものの、基本的にエフェクターの使用は少なく、「適切なアンプと適切なギター」の組み合わせが好み。
メインギターは通称“ミカウバー”や“マルコム”などが有名
▲キースのトレードマークは言わずと知れたフェンダー・テレキャスター。6弦を外したオープンGチューニングがキース流。
キース・リチャーズ風サウンドの作り方
▲ギターはテレキャスタイプ、アンプはフェンダーのコンボタイプが基本。エフェクターはつなげずにアンプのボリュームコントロールによる軽快なクランチ・サウンドを狙おう。イコライザーはミドルを高めに設定した太く暖かいサウンドが肝となる。
▲「ブラウン・シュガー」のイントロをイメージしたフレーズ。オープンGチューニングではバレーフォームでメジャーコードが鳴らせるのだ。
▲唯一無二! 6弦を外したオープンGチューニングはキース・サウンドの源流。
▲ギブソン・マエストロ・ファズボックスのサウンドが特徴的な「サティスファクション」をシミュレート。イントロ終わりでファズをオフにするのをお忘れなく。
さて今回取り上げたキース・リチャーズが在籍するザ・ローリング・ストーンズをはじめ、ザ・ビートルズ、クリームなどのイギリス白人によって、アメリカの黒人(※)音楽であるブルース/R&B/R&Rが再評価された功績はとても大きい。というのもアメリカは人種差別が激しく、公共であるはずのバスやレストランなどが細かく白人と有色人種専用として分けられていた。音楽も同様で、ラジオ局や音楽チャートも完全に分けられていたのだ。そんな社会情勢に反対する動きからマルコムXやキング牧師らが立ち上がり、公民権運動へと繋がっていった。その頃、海を隔てたイギリスでも同様に差別はあったのだが、音楽に関してはより開かれていたようだ。キースを含むイギリス白人たちがアメリカの黒人音楽を世界的にヒットさせたことで、アメリカ国内でも黒人音楽が“逆輸入”され、黒人の地位の向上の一翼を担うこととなった。
※現在はアフリカ系アメリカ人と呼ぶのが一般的です。
(Go!Go! GUITAR 2017年9月号に掲載した内容を再編集したものです)
Edit:溝口元海