邪道?それとも革命!?全然アリじゃん!落語とエレクトーンのコラボ「E~落語」 楽屋編


落語とは、座布団に座った落語家が扇子と手拭いだけを小道具に、語りと身振り手振りで物語を進める伝統芸能。そんな落語とエレクトーンがセッションしてみた!というのが今回の「E~落語」だ。語りに合わせてコミカルに、はたまたエキサイティングにコラボレーションするエレクトーンの音色とリズムは邪道か、それとも革命か。落語とエレクトーンの化学反応「E~落語」をレポートする。

「E~落語」vol.2 若手落語家と新鋭エレクトーン奏者山﨑雅也、奇跡のコラボレーション

 

「E~落語」とは、サイトによると
 

音楽への夢を一台でかなえる楽器「Electone」と、日本古来の芸能「落語」の衝撃の掛け合わせ。音楽の「ヤマハ音楽振興会」と芸と笑いの専門チャンネル「寄席チャンネル」がタッグを組んでお届けいたします。いまだかつて混じることのなかったジャンル同士の斬新なコラボレーションによる新境地をどうぞお楽しみください。


とある。実は、今回は2回目。初回を拝見してみると、落語にエレクトーンによるサウンドトラックをつけるという試みらしい。奏者の山﨑さんは落語初心者。一度高座を聴いて曲をイメージ、即興で合わせるという神業を繰り広げている。
落語は観客やその時の空気によって作り上げる芸。即興のエレクトーンが入ることでどんな化学反応が起こるのか。
今回の演者は、三遊亭遊子さんと桂竹千代さん。落語芸術協会の若手ユニット「芸協カデンツァ」のふたりだ。エレクトーン奏者は前回と同じ山﨑雅也さん。4歳からエレクトーンをはじめ、ヤマハエレクトーンコンクール2016ファイナル(世界大会) 第1位受賞という凄腕。
3人によるトークでは、「落語と音楽の試み。我々も初めて。洋楽器を入れるなんてことがないじゃないですか」(遊子さん)「正直、邪魔じゃないのかなって思ったんですけど」(竹千代さん)と若干戸惑っていた様子。
しかし、打ち合わせ時にいざ合わせてみると、「(山﨑さんは)入れ込むのが上手!まだお若いのに」(竹千代さん)だったとのこと。山﨑さんはふたりの落語1度聴いただけで音を入れたそうで「これが楽しいのなんの」(遊子さん)、「もっといれてくれって。これが音楽の力かと」(竹千代さん)。
今回の演目は「初天神」と「反対俥」。どちらも落語家によって間やフラ(落語家独自のおかしみ)の個性が大きく出る演目だ。エレクトーンが入ることでどんな変化を見せて、聴かせてくれるのか、弥が上にも期待が高まるというものではないか。

 

E~落語(1)

左から三遊亭遊子、桂竹千代、山﨑雅也

 

江戸の大衆文化「落語」の基礎知識

 

ここで落語の説明をしておこう。落語とは、江戸時代から続く日本独自の伝統芸能であり、日本独自の話芸のひとつだ。落語をかける演者を落語家、または噺家といい、前座・二ツ目・真打へと昇進する。前座で見習い期間を終え、二ツ目から羽織を着てプロの落語家として活動できるようになり、真打となれば師匠と呼ばれ弟子を持つこともできる。遊子さんと竹千代さんは二ツ目だ。

落語家というと笑点の出演者がおなじみだが、座布団を並べてお題に答えるのは「大喜利」という。落語の高座は、座布団に座り扇子と手拭いを小道具にして会話形式の演目をひとりで話す。所作で登場人物の年齢や位を表現し、名人ともなると声色を使うことなく様々な人物を演じ分けることができる。

落語は基本「素噺」といい、せいぜい鳴り物という効果音に近いもの(怪談噺のドロドロという音など)しか入らず、音楽などを入れることはない。遊子さんが「落語は、余計なものをできるだけ排除して残った芸」と説明する通り、シンプルさを追求する芸だ。
今回の企画は、この素噺にあえて山﨑さんがサウンドトラックを入れていくという、ある意味伝統芸能への挑戦であり、前代未聞ともいえるだろう。

 

E~落語(2)

 

エレクトーンも存分に楽しむためのストーリー予習

 

これから動画を見る人へのアドバイス。初めての落語がこの「E~落語」なら、それぞれのストーリーを予習しておくことをオススメする。落語は初めて聴いてもわかりやすい伝統芸能なのだが、今回のように何かとコラボする場合はストーリーを知っておいた方がより余裕を持って楽しめる。さらに、エレクトーンの効能を知りたい場合は、通常の高座も聴いておくと良いだろう。

 

初天神(はつてんじん)

 

古典落語。父親と子供の掛け合いが聴きどころで、子供ゆえの素直なおかしみなのか、こまっしゃくれた子供が父親をやり込めるのか、落語家によって演じ方が分かれる。
いくつかのシーンでサゲる(オチをつけて終える)ことができ、また全てかけると長い噺になるため、寄席の尺に合わせて最後までかけられることは少ない。今回は最後までたっぷりとかけられている。

<STORY>
1月25日。近所の天満宮の初天神に出かけようとしている父親に、女房が子供の金坊も連れて行ってくれと頼む。しかし、子供を連れて行くと、縁日でおねだりが始まりうるさいため気が進まない。遊びに行っている間に出かけてしまおうと準備しているところに、金坊が帰ってきてしまった。「おとっつぁん、羽織なんか着てどこいくの。初天神でしょ、連れてっておくれよ」と目ざとく悟られてしまい、仕方なく連れて行くことに。「あれ買ってくれ、これ買ってくれっていうなよ。言ったら川にぶんなげるぞ、川には河童がいてお前の頭を食べちまうぞ」というと「河童は想像上の動物ですよ」と返されてしまう。
天満宮の参道には、縁日が出ている。「おとっつぁん、今日はあれ買ってくれこれ買ってくれって言わないから、あたしは良い子だね」「ああ、良い子だな」「良い子だから、なんか買っておくれよ」。また始まった。「これだから、おめえを連れてくるんじゃなかった」。
屁理屈にダメだと叱ると大声を出してごね始める。だまらせるために飴玉を買ってやることに。売り物の飴をねぶった指であれこれと品定めする父親に、飴屋の親父も渋い顔。さんざん迷った挙句、ようやく決まった飴玉を金坊の口の中に放り込んだ。はしゃいでふらふら歩く息子を父親が思わずこずくと、またしても金坊が泣き出す。「飴落っことしちゃった」「洗えばまた食えるだろ、どこに落ちたんだ」「お腹ん中」。
飴がなくなってしまったので、今度は団子を食べたいと言い出す息子。蜜は着物を汚すから餡にしろというが、どうしても蜜が良いという。父親は蜜を全部舐めとって渡すと息子が嫌だと受け取らない。しようがないので、父親は団子屋の親父を騙して蜜の壺へ団子を2度漬け。親子で逃げてくる。
お参りも終わったところで凧屋を見つける。欲しいという息子に買ってやり、さっそく空き地で揚げることにする。腕に覚えがある父親、貸してくれという息子そっちのけで凧揚げに夢中。空高く凧を揚げてはしゃぐ父親をみて、息子が
「これだから、おとっつぁんを連れてくるんじゃなかった」。

 

E~落語(3)

 

反対俥(はんたいぐるま)

 

古典落語のひとつ。人力車が登場し、上野から汽車が走り始めていることから、明治から大正初期を舞台にしている比較的新しい噺である。さまざまな型があり、演者によって登場する駅もサゲも違う。
噺に登場する人力車とは、人が引く二輪車のこと。現在のタクシーのようなもので、今でも観光用の人力車を浅草などでみることができる。
車夫が啖呵を切ったり何度もジャンプしたりなど、とにかく体と口を動かすため見た目よりも技術と体力を要する演目。そのため若手が演じることが多いが、難しい噺でもあるため前座がかけることは滅多にない。得意とする噺家が少ないため、聴けることはなかなか貴重。

<STORY>
上野駅から汽車に乗りたい男。しかし、歩いていたのでは発車の時刻に間に合わない。俥で上野駅まで行こうと車夫に声をかけて「急いでやってくれ」。しかし、俥はオンボロ、車夫もよぼよぼとおぼつかない。聞けば、今日手術予定だったが手術費用がないため俥を引いて手術費を稼いでいるという。今にも倒れてしまいそうでちっとも前に進まない。男は金だけとられて俥を降りた。
「もっと屈強で速そうなのはいないのか」と探すと、筋肉隆々のいかにも速そうなのがいた。「できるだけ早く上野までやってくれ」というと、車夫は猛スピードで走り始める。しかも「曲がったことは嫌いだ」とひたすら直進。障害物はジャンプ。次から次へと越えてゆく。あまりに速いものだから、上野駅を通り越してなんと福島県郡山市まできてしまった。戻れ戻れと再び上野駅を目指し、「間に合った!」。
「ところで旦那、これからどこに行くおつもりなんで?」
「福島県郡山市まで」

 

E~落語(4)

 

最初の一席は「初天神」!親子のコミカルなやりとりをお楽しみに!

 

出囃子は噺家のテーマソング。って、出囃子も山﨑さんが弾いている!エレクトーンって、三味線も太鼓も笛の音も出せるんか…(筆者の楽器の知識は幼少にピアノを嗜んだ程度)。地方での落語会ではお囃子さんを連れて行くことができないので出囃子をCDなどでかけるのだが、山﨑さんひとりいれば問題が解決するのではあるまいか…と興行主視点で考え始めてしまう。
遊子さんが高座にあがり、一礼。正面切ったら「初天神」の始まりだ。

驚きと楽しさでテンション爆上がりの落語本編の様子は、高座編で!

 >高座編の記事はコチラ! 

 


 

【Profile】
●桂竹千代(かつらたけちよ)
昭和62年3月17日生まれ 千葉県出身
<芸歴>
平成23年7月 桂竹丸門下 楽屋入り
平成23年10月 前座となる「竹のこ」
平成27年9月 下席 二ツ目昇進「竹千代」となる

平成31年3月 第18回さがみはら若手落語家選手権 優勝
 

ホームページ:

http://katsuratakechiyo.club/
Twitter:@katuratakechiyo

 

 

●三遊亭遊子(さんゆうていゆうこ)
昭和63年7月19日生まれ 東京都出身
<芸歴>
平成24年4月 三遊亭遊三に入門
平成24年6月 六月上席楽屋入り「遊松」となる
浅草演芸ホールにて初高座『子ほめ』
平成28年6月 六月中席二ツ目昇進「遊子」となる
 

ホームページ:

http://www.goldenmusic.co.jp/sanyutei_yuko_eventInfo.html

ブログ:https://ameblo.jp/yuko-sanyutei/
Twitter:@hosaka0719
Instagram:@yuko_sanyutei

 

●山﨑雅也(やまざきまさや)
1998年生まれ。
ヤマハエレクトーン コンクール2016 第1位
エレクトーンのソロ活動やバンド活動と共に、舞踊・落語・映像・ミュージカルとのコラボレーションなど活動の場を広げている。企業CMや映像番組の音楽制作を担当。
ヤマハエレクトーン演奏グレード2級。ヤマハミュージックジャパン専属エレクトーンデモンストレーター。
 

ホームページ:

https://ym0608.wixsite.com/masaya

 

 


 

【Information】
月刊エレクトーン5月号(4/20発売)でも、E~落語の記事を掲載中!

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Text:櫻庭由紀子
Photo:溝口元海(be stupid)