コードの響き、キャラクターがよくわかる 作曲に役立つコードワーク 第11回 コード進行をオシャレに味付けする「ラインクリシェ」【Go!Go! GUITAR プレイバック】

コードがどうやって作られ、そしてどのように音楽に組み込まれているかを勉強していく連載の第11回。今回取り上げるのは、似た構成音のコードを複数組み合わせて音楽を作る技法「ラインクリシェ」だ。
文/平川理雄 マンガ/dobby
同じ系統のコード(コードの機能が基本的に同一)の中の1つの音(正確には声部という)が2度音程で変化するコード進行のパターンをラインクリシェ(または単にクリシェ)と呼ぶ。ここでクリシェの説明の前に「コードの機能」について知っておこう。
冒頭で7つのダイアトニックコードを掲示しているが、この7つは次の3種類に分類される。まず主要三和音と呼ばれるコードが、IM7=トニック(略:T)、IVM7=サブドミナント(略:SD)、V7=ドミナント(略:D)の3つ。そしてIIIm7とVIm7はTの代理(楽曲の中での音楽的役割が同じ)、IIm7はSDの代理、そしてVIIm7–5はDの代理となっている(図)。詳細は誌面スペースの都合上別の専門書に譲るが、まずはこの3種類の機能的名称とその分類を覚えておこう。
さて、譜例①を見てみよう。3声和音のCメジャーから始まっているが、その5thが全音上がってC6に、さらに全音上がってCM7に、そして全音下がって再びC6に戻っている。ここに登場する3つのコード(C、C6、CM7)は、Key=Cにおいてすべてトニックで、その中の1つの音が5→6→7→6と変化するラインクリシェ。とてもスムーズな響きのコード進行になっている。
イントロやアウトロだけではなく、曲中でももちろん使うことができる。あるいは何かの曲の伴奏をするとき、2小節の間Cコードだけが書かれている場合などで、もしメロディーの邪魔にならないのであれば、プレイヤーの判断でこのクリシェを弾いてしまってもいい。つまりこれは、作曲者にとってもアレンジャーにとっても演奏者にとっても、自分のセンスが出せるおいしいテクニックというわけだ。
ラインクリシェのパターンには数多くあって、ここですべてを紹介しきれないので、特にポップス/ロック/ジャズなどで使われることの多いパターンをいくつか紹介しておこう。
まずはメジャー系のクリシェから(譜例①もメジャー系)。譜例②はトニックCの5thが♯5→6→♯5と半音移動し続けるパターン。譜例③はC6までは譜例②と同じだが、それがY7まで上行してから次のFM7(SD)に移るパターン。ここでのC7は実はトニックではなく「セカンダリードミナント(略:d)」という機能なのだが、クリシェのパターンではこのセカンダリードミナントを含むものも多い。
譜例④は譜例②のマイナー版で、「Cm、Cm+5、Cm6」の3種はトニックマイナー(略:Tm)という機能を持つ。譜例⑤は譜例③のマイナー版で、続くFm7はマイナーキーでのIVm7ということで、サブドミナントマイナー(略:SDm)という機能だ。
譜例⑥(a)は下行形のクリシェで、Cmのルートから下行するので、ベースがその動きに追随するアレンジもある(譜例⑥(b))。何かの曲をスコア通りに弾くのではなく自分なりにアレンジする場合、その楽譜には譜例下部にあるようにコードの機能とラインクリシェ(クリシェのパターン)を記しておくと、後々アレンジを思い返すのに役立つかもしれない。
先に紹介した2小節程度の短いクリシェはイントロやアウトロ、間奏といったボーカルが歌っていないパートで使われることが多いのだが、あえて歌メロの伴奏として複数のクリシェが使われているコード進行を紹介しておこう。
譜例⑦の冒頭3つのコード進行は譜例⑥(b)のメジャー版。2小節3拍目のルートがAなので、そこに向かってベースもC→B→B♭→Aとクリシェと同じく半音下行させてある。3~4小節目はやはり譜例⑥(b)の応用だが、ここでの[Dm、DmM7、Dm7]の3つはIIm7の仲間なので、どれもサブドミナント(代理)という機能だ(表記:SD(sub))。マイナー系クリシェはこのように、メジャーキーの中のマイナーコード(IIm7、IIIm7、VIm7)での使用が可能なのだ。ちなみにクリシェをパターン表記する際は、曲のキー(=C)を元にするのではなく、クリシェ本体のルート(Dm7の“D”)を「1」として(1, 7, ♭7)と記述する。
(Go!Go! GUITAR 2017年10月号に掲載した内容を再編集したものです)
Edit:溝口元海