ロック史を創ってきた者たち 世界が愛したギターヒーロー名鑑 vol.9 チャック・ベリー【Go!Go! GUITAR プレイバック】

まさにロックンロールヒーロー、彼こそがロックの源流!
ギターの可能性を広げてくれたギターヒーローにスポットを当てて紹介するコーナーの第9回。今回取り上げるのは、ロックンロールの始祖者の1人であるチャック・ベリーだ。
文/平川理雄 マンガ/dobby
■ 生まれ持ってのロックスター
本名、チャールズ・エドワード・アンダーソン・ベリー。1926年10月18日、アメリカ合衆国ミズーリ州セントルイス生まれ。中流家庭に育ったチャックは幼少の頃から音楽に興味を持っていた。15歳のとき地元の高校でのイベントでブルースを歌ったのが初ステージ。その後、級友の影響でギターを始めるものの、強盗をはたらき18歳から21歳までを少年院で過ごす。出所後は自動車工場で働きながら、地元のクラブでギター&ボーカルとして演奏を開始。T・ボーン・ウォーカーの派手なパフォーマンスに影響を受け、自らも身振りや豊かな表情を駆使して派手なステージングを行っていた。中でも膝を曲げた片足1本で跳ねる「ダックウォーク」は有名。
■ フロントマンとしてレコードデビュー
1952年の大晦日、ピアニスト、ジョニー・ジョンソン率いるジャズ&ブルースバンド、サー・ジョン・トリオに加入。その頃のレパートリーといえば、黒人向けのブルースやバラードだけではなく、白人向けにカントリーも演奏していた(これが後に伝説を生む)。1955年にシカゴにツアーに出て、そこでマディ・ウォーターズの推薦を受けてチェス・レコードと契約。その際、チャックがフロントマンとなることが良いだろうとの判断から、トリオは彼のバックバンドとなった。
■ ロックンロールの誕生
チャックはブルースを演奏したかったのだが、レーベル側は減少しつつあるR&B市場を覆すようなビートの効いた作品を要望。その結果チャックの初レコーディングは、白人向けの古いウエスタン・ナンバー「アイダ・レッド」をチャック流に解釈した「メイベリーン」となった。なんとこれが100万枚を超える大ヒット。それまで黒人音楽として差別されてきたブルースやR&Bが、人種の垣根を超えた「ロックンロール」として生まれ変わった歴史的な1枚となったのだ。以降「ロック・アンド・ロール・ミュージック」「ジョニー・B.グッド」とヒット曲を連発。後にザ・ビートルズやザ・ローリング・ストーンズ始め多くのロックミュージックを生み出す礎となった。2017年3月18日、ミズーリ州の自宅にて90歳で逝去。
■ チャック・ベリー
1926 10月18日、アメリカ合衆国ミズーリ州セントルイスに生まれる。
1941 15歳、高校のイベントで初ステージを踏む。
1952 ジャズピアニスト、ジョニー・ジョンソン率いるバンド、サー・ジョン・トリオに加入。
1957 デビューアルバム『AFTER SCHOOL SESSION』をリリース。R&Bとカントリーをベースにしたサウンドが特徴。
1959 チャックの代表曲「Johnny B.Goode」を収録したアルバム『CHUCK BERRY IS ON TOP』をリリース。
1961 アルバム『NEW JUKE BOX HITS』をリリース。「I'm Talking About You」は後にザ・ローリング・ストーンズもカバー。
1972 シングル「My Ding-A-Ling」をリリース。初の全米・全英1位を獲得。ライブテイクならではの陽気な雰囲気が話題に。
1981 初の来日公演を果たす。翌年の再来日では、RCサクセションらと共にイベント「The Day Of R&B」に出演。
1986 ロックの殿堂入り。世界中の誰もが認めるロックレジェンドへ登り詰める。
2017 3月18日、ミズーリ州の自宅で逝去。6月9日、38年ぶりの新アルバム『CHUCK』をリリース。
■ ギター&アンプ
ギターは、キャリア初期はKAY(ケイ)社製Thin Twinを使用、デビュー後はギブソン社製ES-350T、ES-350TN、ES-335TD、ES-345TD、ES-355TD、ES-355TD-SVなどのシリーズを使っていた。アンプは「フェンダー社製Dual Showman Reverbを2台用意すること」との契約がプロモーターと交わされていたようだ。
▲伝説のロックンロールサウンドの源はギブソン製のES-350T。デビュー後から愛用の銘器だ。
▲フェンダー製のアンプ、Dual Showman Reverb のヘッド部分。大型のスピーカーキャビネットと組み合わせるのが基本。
チャック・ベリー風サウンドの作り方
▲ギターはセミアコタイプ、アンプはフェンダーのコンボタイプ、エフェクターをかけずにマイルドな歪みを作るのがチャック流。アンプのイコライザーは、トレブル、ベースを抑えめにして暖かみのあるトーンを目指したい。
以前から存在していたR&Bとその後1955年前後に誕生したロックンロール、この2つの“境界線”の一番の特徴は「8分音符」だ。ブルース、ジャズ、R&B、ブギウギなど、それまで存在していたアメリカの黒人音楽は基本的に3連符系のスウィングだった(譜例1-a)。チャック・ベリーや、リトル・リチャード、アイク・ターナー、エルヴィス・プレスリーなどはこの8分音符をイーブン(均等)に並べることで(譜例1-b)新たなリズムを作り出したのだ。その“境界線”の誕生をエピソードとして取り入れている映画が「バック・トゥ・ザ・フューチャー」。1985年からタイムスリップした主人公が1955年のパーティー会場で演奏したのがまさに「ジョニー・B.グッド」。ステージ上で演奏される彼のギターは、当時まだ一般的ではないイーブンの8分音符なのだが、バンド(特にドラム)のシンバルはスウィングしているのだ! 2つのリズムが混在するこのシーンは音楽ファンなら必見!
そしてチャック・ベリーと言えばこのリフとダックウォーク! ご存知「ジョニー・B.グッド」のイントロをイメージしたものだが、チャックは他の様々なブルースフォーマットの楽曲の冒頭でも、このフレーズを少し変えながら弾いている。ここで登場した「ブルースフォーマット」というものをおさらいしていこう。12小節というサイズで演奏されるこの形式(譜例2)が確立したのは1900年代前半。ロバート・ジョンソンらブルースマンによって作られていった形式だが、ジャズでもコード進行を細分化した形で1930年代頃にはすでに使われていた。ブルースのリズムが強調される形で1940年代に誕生したR&Bでも、当然のごとく使用されている。そのフォーマットを上記の“ハネない8ビート”でプレイすることで新たにロックンロールが誕生したのだ。カッコの付いたコードは弾かれることもあるし、弾かれない場合もある(「ジョニー・B.グッド」内でもその両方のパターンがある)。これはいわゆる「BYのブルース」だが、下の度数表示で覚えておけば、どんなキーのブルースでもセッションができるぞ。
▲チャックの代名詞である「ジョニー・B.グッド」を模したロカビリースタイルのリフ。2本の弦を使ったスライドをバシッと決めるとゴキゲンだ。
(Go!Go! GUITAR 2017年8月号に掲載した内容を再編集したものです)
Edit:溝口元海