挫・人間インタビュー「バンドって『ドラクエ』的なものだと思っているんですよね」


挫・人間が前作『ブラクラ』から1年5か月ぶりに、6thアルバム『散漫』をリリースする。前作はキャリア最高のセールスを記録し、昨秋には新メンバーの加入を経て6年ぶりに4人編成となった彼ら。新体制になってから半年で6曲をデジタルリリースするなど絶好調に思われたが、今年3月にドラマーが早くも脱退するという事態に…。そんな中でも進化を止めることなく、挫・人間にしか生み出し得ない新たな傑作を完成させた。高校1年生で結成して以来、まさしく波乱万丈なバンド道を歩んできた下川リヲ(Vo./G.)もついに30歳。いろいろあったけれど“悪くはない”と振り返る、ここまでの人生を凝縮したような新作について話を訊いた。

「バンドにこだわっていきたいとは思っています」

 

ーー去年3月に前作の5thアルバム『ブラクラ』をリリースして以降、アベマコト(Ba./Cho.)くんの脱退を皮切りに新メンバーが入っては抜けて…と、メンバーチェンジの激しい期間でしたね。

下川:信じられないことですよね…。“(メンバーチェンジのスパンが)こんなに早いの!?”っていう(笑)。はたから見たら、“バンド内の見えないところで何かすごいことが起こっているんじゃないか?”と思われてしまいそうな…。

ーー“これは中心人物に何か問題があるんじゃないか?”と思われても仕方がないというか…。

下川:これに関してはたぶん、問題はあります(笑)。

ーー認めた(笑)。

下川:問題はあるんですけど、僕だけの問題じゃなかったというか。“合う/合わない”という部分が加入後に発覚していった感じで、“このままの状態で3年くらい頑張るより、お互いのためにもリニューアルしたほうが良いな”という結論に早い段階で至ったんです。その結果、即脱退という結果になりました。

ーーそれは去年11月に加入して、今年4月に脱退したスローセックス石島(Dr.)くんのことですよね。

下川:そうですね。彼は実質、3か月くらいしかいなかったです。

ーードラマー脱退ということで新たにメンバー募集するも応募が0件ということですが、これはネタではなく事実?

下川:事実です(笑)。みんな冗談だと思っているみたいなんですけど、本当に応募が0件なんですよ!

ーー実際に応募は来ているけど、密かに断っているだけでは…?

下川:と思いますよね。…0件です。

ーーなるほど…、公式サイトに応募条件を明記しているのも面白いなと思ったのですが。

下川:条件を絞ったほうが“これは自分に合っているな”と感じた人が応募しやすいだろうと思ったんですけど、…0件ですね(笑)。

ーーそんな残念な状況も含め(笑)、自分たちのことを歌ったのが今作『散漫』のM-2「人間やめますか?」なのかなと。

下川:
“こんなにもメンバーが入れ替わるバンドは、なかなか他にいないだろう”っていう自虐的な気持ちが湧いてきたので、このタイミングで曲にしたほうが良いなと思って。そんな時にたまたま街に出たら、“人間やめますか?”というフレーズを見かけたんです。“これは他人事とは思えないな”となって、そのまま曲名にしました。

ーー薬物防止の啓蒙で有名なキャッチコピーですよね。でも“またメンバーリセマラ失敗じゃねえかよ!!”という歌詞を見ると、意図的にメンバーチェンジを繰り返しているようにも見えてしまう気が…。(※リセマラ:リセットマラソンの略)

下川:
リセマラしているように見えてしまうとは思うんですよね。そういうふうに見えても仕方ないかなとは思いますし…。​​​​​​​

ーーそれに続けて、“こっちはバンドのキッザニアじゃねえんだ”という歌詞も。

下川:
バンド体験というか(笑)。“怖いもの見たさで入ってきやがって!”みたいなところはありますね。

ーーこれまでの経緯を見ると、何度メンバーチェンジしても“バンドがやりたい”という軸はブレていない?

下川:
バンドにこだわっていきたいとは思っています。やっぱりみんなで集まってやるということが大事で、バンドって『ドラクエ』(※『ドラゴンクエスト』)的なものだと思っているんですよね。仲間がいて、それぞれの個性が集まって1つのことをやるっていうのが好きなんです。

ーー集まる仲間によって、異なる化学反応が起きるのもバンドの面白さですよね。

下川:
そうなんですよ。“こんなふうに自分の作品が変わるのか”と感じたり、“(メンバーが)こういうふうに自分の曲を捉えていたのかな”と考えたりすることが自分としては楽しいというのがありますね。




「夏目くんにとってサウナというのはかなりファンタジーな存在」

 

ーー前作のインタビュー時に自分たちの作ったものに対して“爆笑できる”ということが良いかどうかの基準だという話があったのですが、そこで一緒に笑えるという部分もメンバーを選ぶ上で大きいのでは?

下川:一番大事なところが、そこかもしれないです。“これは面白い”と感じるものを共有できる人とはやりやすいですね。“なんでこれが面白いんだろう? この人たち、怖い…!”ってなると辞めちゃうんだと思います(笑)。

ーーハハハ(笑)。昨年11月に加入したマジル声児(Ba./Cho.)くんとは、そこが共有できている?

下川:
そうですね。そもそも彼自身も“面白いか/面白くないか”を行動原理にしている人だから。挫・人間に入る前は、2年くらいホームレスだったんですよ。

ーーえっ、そうなんですか。

下川:
北海道からベースだけ持って上京してきて、そのまま家もなく2年間くらい暮らしていたんです。仕事もなければ、携帯電話もないみたいな状態だったんですけど、ベースだけはずっと手放さずに持っていたので、“こんな面白いヤツはあんまりいないな”と思って。彼も挫・人間のことをずっと好きでいてくれたので「一緒にやろうよ」と誘ったら、「めっちゃ面白いね!」と言って入ってくれたんですよ。そういう経緯もあって、“面白い”をすごく大事にしている人だなと思っています。

ーー何を“面白い”と感じるかの感覚が近いんでしょうね。

下川:
だから、(やりたいイメージが)すぐ伝わることが多いですね。マジル声児は漫画もかなり読んでいるので、そういう話も結構できて。今まで他人とはほとんどしたことがなかったメガドライブの話とかもできるというありがたさが、彼にはあります。やっぱり“同じものを見てきたんだな”というのがわかると、すごくやりやすいですよね。

ーー今回の『散漫』は、現体制になってから制作したんでしょうか?

下川:
いや、まだ石島がいる時期から制作は始まっています。制作中に石島が脱退して、マジル声児が左手を骨折して…(笑)。

ーートラブルだらけですね(笑)。

下川:
めちゃくちゃトラブルが起きた中で作られたアルバムなので、逆にそれが曲のバリエーションにもつながったかなとは思いますね。たとえば「ドラムがいないなら、打ち込みで曲を作るしかないな」みたいな思考になって。それで作ったのが、M-1「I LOVE YOU」とM-7「デスサウナ」なんです。

ーー今作の中でも、飛び道具的な2曲ですね。「I LOVE YOU」は“Are you sports man?”という問いかけから始まりますが、スポーツマンから縁遠い人が言っている感じが面白いなと。

下川:
あれは自分がデモを作っている時に“曲の前に何か欲しいな”と思って入れたんですけど、なぜかメンバーに好評だったので本番のテイクにも生かされてしまったという…。

ーー何か意味はあるんですか?

下川:
特にないですね。でも「スポーツマンですか?」と聞いた時に、「そうです。私はスポーツマンです!」と答えられた時に恐怖を感じるような部分は自分の中にあって。やっぱり縁遠いので(笑)。

ーーもう一方の「デスサウナ」は本当にサウナ愛があるゆえの歌詞なのか、それとも現在のサウナブームに対するアンチテーゼなのか、どちらなんでしょう?

下川:
僕は今のブームが来る前から、サウナが好きだったんですよ。でもこの曲を書いたのは夏目くんで、彼はサウナに全く行かない人なんです。たぶん夏目くんにとって“サウナ”というのはかなりファンタジーな存在なので、“人喰いサウナとかありそうな気がする…”とか思って書いているんじゃないかな(笑)。

ーーなんとなくこの歌詞からは、サウナについてネットで調べた内容を歌っているような薄さも感じたのですが…。

下川:
“サウナって、こういうものらしい”とネットで調べた情報に基づいて書いた感じがしますよね。それこそ“サウナー”が聞いたら、ブチ切れそうな内容というか(笑)。

ーーこの曲の直前に入っているM-6「大バカもののうた」は真っ当に良い歌なので、そことのギャップもすごいですよね。

下川:
この2曲が並んでいると、本当にわけのわからないバンドみたいな感じがしますね(笑)。


挫・人間インタビュー(1)

 

「自分にとっては夢のランチセットみたいな感じですね」

 

ーーもしかして、そういういろんなものが混ざり合った曲の並びが『散漫』というタイトルにつながっている?

下川:
まさしくそうです。“ごった煮”じゃないですけど、いろんなタイプの曲が集まっている感じがするアルバムだと思うんですよ。玉石混交的なバラバラ感があるというか。今までの挫・人間もずっとそうだったと思うんですけど、今回はそれが顕著にわかりやすい感じがして。

ーー悪い意味ではなく、“散漫”という言葉を使っているわけですよね?

下川:
そうですね。本来はネガティブな意味の言葉だと思うんですけど、このアルバムを聴いた時にポジティブな意味として“散漫”という言葉が光るかなという感じがしたんです。

ーーそもそも下川くんの好きなものが幅広いので、それを形にした楽曲を1枚のアルバムにまとめると結果的にそういった印象にもなるというか。

下川:
聴く人が聴けば“なんて筋の通っていない人なんだ”とか“軸がない”と思われるかもしれないけど、僕の中では全部に軸があるんですよね。全部、好きなものだから。

ーーそこは全くブレていない。

下川:
たとえば“俺はジャズしか聴かない”という人もいると思うんですよ。でも僕はそうじゃなくて、いろんなものが好きなので、それを余すところなく全部やりたくなっちゃうんですよね。ビュッフェ的に“あれも取りたい。これも取りたい”って感じで集めていって、自分だけのプレートができあがるとうれしいっていう。インスタ映えはしないかもしれないけど、自分にとっては“夢のランチセット”みたいな感じですね(笑)。

ーー自分の好きなものだけを集めた“オールスター”みたいな感じですよね。

下川:
そういうものが聴きたいなと思っているんですけど、意外と世の中にはないので、自分で作って満足しているという感じです。

ーー過去の作品もそういった性質はあると思うのですが、中でも今作が一番そういった要素が強い?

下川:
今までで一番、それが出ているというか。“散漫”って、本当に挫・人間っぽい言葉だなと思っていて。20代最後に作った作品ということもあって、わりと集大成的な感じがするというか。いろんな挫・人間の要素を振り返った上で1枚に収められたなという感じがするので、このタイトルがハマるなと思ったんです。できあがって聴いた時に最初に思いついた言葉でもあったので、タイトルにしました。

ーー制作するにあたって、20代最後の作品ということは意識していた?

下川:
制作が終わってから30歳になったんですけど、アルバムの制作中は“20代最後の作品だな”ということは考えていました。

ーー1つの大きな節目ではありますよね。

下川:
“Don't trust over thirty”みたいな言葉もあるじゃないですか。中学生くらいの頃から、それくらい“30歳”というものに対してファンタジー的な感覚があったというか、あまり現実味のないものだったんです。30歳以降の自分については全く想像していなかったので、実際に30歳になって“これからどうしようかな…?”という思いはありますね(笑)。中学生の頃に描いた絵図には、もう(今の自分は)いないなと思っています。

ーーとはいえ、M-5「さよならベイベー」で“人生って見苦しいでしょ”や“恥ずかしいでしょ”と歌いつつも最後には“悪くないでしょ”と歌っているのは、ここまで生きてきた人生を肯定する意味合いもあるのかなと思ったのですが。

下川:
例えば学生時代に暗かったことだったり、他人から見ると“みじめな人生”だと思われそうな部分はあるんですよね。でも曲がりなりにもこういうエキセントリックなバンドをやっているにもかかわらず、たくさんのお客さんに聴いてもらえていることを考えると、これはこれで悪くないというか。自分が選べる道の中でベストな選択をしてきたなという感覚はあります。

ーー他人からどう見えるかは別として、自分の中で後悔のない選択はしてきた。

下川:
その上で“悪くもないな”っていうか。まだ「人生って良いな」とは言えないんですけど、“悪くはない”という気持ちはありますね。

ーーまた今作のリリース後にメンバー脱退があったとしても、それはそれで悪くないというか…。

下川:
いやいや、やめないですから!(笑)。でもここまで本当にいろんなことがあったから、「ありえない」とは言い切れないな…。何が起こるかわからないし、油断できないところはありますね(笑)。​​​​​​​

 


 

挫・人間インタビュー(2)


【プロフィール】

下川リヲ(Vo./G.)

夏目創太(G./Cho.)

マジル声児(Ba./Cho.)

公式サイト:https://za-ningen.xyz/

【リリース情報】

挫・人間インタビュー(3)


6th Album『散漫』redrec/sputniklab.inc
2021/8/4 Release

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【初回限定盤(CD+DVD)】
RCSP-0119〜0120¥5,500(税込)

【通常盤(CD)】
RCSP-0121¥2,750(税込)

 


 

Text:大浦実千