2年連続採用のセンバツ入場行進曲『パプリカ』、去年と今年の編曲はどう変わったのか?


3月19日に開幕する、第93回選抜高校野球大会。昨年は新型コロナウイルスの影響で史上初の中止となったが、今年は観客を入れての開催が予定されている。入場行進曲は、昨年の『パプリカ』を今大会でも演奏することが決定。編曲を担当した酒井格氏に、アレンジのこだわりを聞いた。

春のセンバツといえば、選手の入場行進曲として、前年のヒット曲などが演奏されるのが毎年の恒例。中止となった前回大会でFoorin(フーリン)の『パプリカ』が選ばれていたが、今年も同じ曲になり、先日、新たな編曲で「オオサカ・シオン・ウインド・オーケストラ(Osaka Shion Wind Orchestra)」の演奏で収録された。CDは出場校に贈られる。

昨年、披露する場がなくなってしまったということもあり、同じ楽譜を使ってもよさそうなものだが、なぜわざわざ編曲し直したのだろうか。第81回大会から編曲を担当する、作曲家の酒井格氏に聞いた。

 

「昨年のバージョンは、残念ながら甲子園で演奏する機会がなくなり、いくつかのラジオ局でCDをかけてくれましたが、『知る人ぞ知る』という感じでした。今回、主催者の毎日新聞社から「新バージョンを作ってほしい」との依頼があり、新たな気持ちで編曲しました」

 

6/8拍子に変更し、軽快さをアップ

 

両アレンジを聴いてみたところ、調も改め、かなり変わった印象を受ける。

 

「誰かがどこかで聴き比べたときに、『酒井格、ちゃんと仕事してるな』と思ってもらえるように(笑)、明らかな違いを出しました。具体的にいうと、92回大会でAs-dur(変イ長調)から始まっている出だしを、93回大会ではEs-dur(変ホ長調)に調を変更し、拍子も4/4から6/8に変えました」

 

6/8拍子は、名行進曲『ワシントン・ポスト』(作曲/ジョン・フィリップ・スーザ)や、誰もが知る『ミッキーマウス・マーチ』(作曲/ジミー・ドッド)など、多くのマーチで採用されており、キビキビと気持ちよく行進できそうな軽やかさ。『パプリカ』もこの拍子に変えることで、さらに軽快な印象になった。酒井氏がセンバツ入場行進曲を6/8でアレンジするのは、今回が2回目という。

 

「83回大会の入場行進曲が、いきものがかりの『ありがとう』で、初めて6/8拍子で編曲しました。原曲のメロディを聴いて、感覚的に6/8のほうがデフォルメしやすいかなと思いまして。今回は、昨年と明らかに違いを出したくて変えましたが、おかげさまで、オオサカ・シオン・ウインド・オーケストラの皆さんにも好評でした」

 

長時間演奏し続ける奏者への考慮とは

 

編曲する際は、鳴りの良さや演奏のしやすさも考慮する。

 

「ピッコロなどの小さい楽器は高い音、チューバなどの大きな楽器は低い音が守備範囲なので、まず、高音と低音がそれぞれよく響くようにすること。そして、高い音が続かないようにしたり、適度に休みを入れるなど、演奏していてキツくないことも心がけています」

 

センバツの入場行進は、毎年近畿2府4県の警察音楽隊が合同で演奏を担当しているが、30校以上の出場校が入場し終わるまで、数十分間演奏し続けることになる。春の甲子園は、日差しもおだやかでうららかなイメージがあるかもしれないが、実際に現地で観戦していると、朝や日陰はかなり寒く、ダウンを着ている観客が大勢いる。アルプススタンドで演奏している吹奏楽部も寒さで指先が回らなくなるため、カイロで暖をとる光景にも何度も遭遇してきた。

 今年はコロナ禍につき開会式も簡素化されることから、生演奏をとりやめることが決定しているが、このような環境で演奏しやすい編曲はとても重要だろうと、酒井氏の話を聞いて改めて感じた。

ところで、同じ曲を編曲し直すのは、どれくらい大変なのだろうか。

 

「1回だけなら何とかなりますが、来年も再来年もとなると、ちょっと大変ですね……(苦笑)」

 

コロナ禍による自粛生活が続くなか、新アレンジの『パプリカ』を聴くとパッと明るい気持ちになり、とても心に沁みた。そして、甲子園で球児たちが元気に行進する様子が目に浮かんだ。酒井氏は、

 

「新型ウイルスの影響でいろいろ制限があると思いますが、どんな形になっても甲子園の舞台にたてることを誇りに思って、胸を張ってプレーをしてほしいです」

 

と、球児たちにエールを贈る。

今年はコロナ禍により、アルプススタンドでの吹奏楽部の演奏が禁止となったが、事前に収録した音源を甲子園で流すことが決定。
例年とは少し異なるセンバツになりそうだが、『パプリカ』でハツラツと入場する選手たちの姿を、テレビ中継で見届けたいと思う。

 

センバツ入場行進曲『パプリカ』(1)

第91回選抜高校野球大会で堂々と行進する習志野ナイン(2019年)

 

【PROFILE】
酒井格(さかい いたる)
作曲家
大阪音楽大学・大阪音楽大学短期大学部 作曲講師

1970年3月24日大阪生まれ。4歳からピアノを習い始め、6歳で最初のピアノ作品を作曲する。高校時代、吹奏楽部でフルートを担当し、初めての吹奏楽作品『たなばた』を作曲する。大阪音楽大学作曲学科を卒業後、同大学院を終了。1997年大阪で開催された「なみはや国体」に、式典音楽のスタッフとして参加し2曲のファンファーレを作曲する。
『たなばた』の他、大阪音楽大学在学中に作曲した『おおみそか』、また、奈良県吹奏楽連盟の委嘱で作曲した『大仏と鹿』『若草山のファンファーレ』などの吹奏楽作品がある。作曲を田中邦彦、千原英喜の両氏に師事。選抜高等学校野球大会では、81回大会から入場行進曲の編曲を担当している。
6月19日(土)、アクトシティ浜松で開催されるヤマハ吹奏楽団第55回定期演奏会では、2020年度委嘱作品『さよなら、カッシーニ』を世界初演予定。

 


 

【INFORMATION】

▼楽譜データ販売サイト「ぷりんと楽譜」
選抜高校野球大会入場行進曲 公式吹奏楽譜(吹奏楽譜、パート譜)


2020年「第92回選抜高等学校野球大会」入場行進曲は米津玄師作詞・作曲「パプリカ」。
子どもから大人まで幅広い世代から愛される人気曲を、酒井格編曲の公式楽譜。

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2009年・第81回大会から2017年・第89回大会の公式吹奏楽譜。
(GReeeeN「キセキ」、いきものがかり「ありがとう」、星野源「恋」他)

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Text&Photo:梅津有希子

 

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