【秘密レコード〜 レコ屋がこっそり教える、ヒミツのレコメンド】第14回「ソフト・ロック・アゲイン! 〜 買うなら今のうち!? 底値 but 最高な名作10撰(US編)」


ディスクユニオン新宿ロックレコードストア店長の山中明氏​​による連載コラム! レコード・バイヤーとして、そして1レコード愛好家として有名無名を問わず数知れない盤に触れてきた著者が、独自の視点でセレクトした推薦盤をその時々のテーマに沿って紹介していく連載です。

第14回は「ソフト・ロック・アゲイン! 〜 買うなら今のうち!? 底値 but 最高な名作10撰(US編)」。これまで数々のレア盤、奇盤をご紹介してきた本コラムですが、今回はちょっと趣向を変えて「ソフト・ロック」に再注目。一時のブームが過ぎ去ってしまい、値段は安いものの、内容は抜群! …という名盤の数々をご紹介していきます。今買っておけば、ブームが再来した時に一攫千金も夢じゃない!?

なお、以下で紹介しているものの多くはCDやアナログ盤で再発されていたり、音楽配信されていたりもしますので、もし気になったものがありましたら、まずはインターネット上でディグするところから始めてみてはいかがでしょうか? そこには、底知れぬ深淵が待ち構えているかもしれませんが…。

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いらっしゃいませ! Himitsu Recordsへようこそ!

ソフト・ロックはお好きですか? え? 昔は聴いてた? お? そんなの知らない? うーん、そうですよね……。

音楽がお好きな方であれば少なくとも一度は耳にしたことがあるジャンル「ソフト・ロック」は、ここ日本で産声を上げています。英米では見向きもされていなかった音楽たちに陽を当て、その旋風は渋谷系という音楽シーンをも生み、かつては一世を風靡した一大ジャンルでした。

しかし、この「かつて」というところがミソで、今では本当に人気のないジャンルなんです。
もちろん(私も含めて)今でも好きな人はいっぱいいるんですが、ジャンルが生まれてから数十年間、同じ情熱で聴き続けてきた人、もしくは、これから新しく聴き始めようとする人、残念ながらどちらもかなりの少数派だと思います。2023年現在、それがレコード屋の現場の体感です。

では、そんなソフト・ロックをレコード屋の観点から見てみましょう。
さかのぼること1980年代。ソフト・ロックと呼ばれるレコードたちは、英米では全く需要がなく、現地のレコード屋では投げ売り状態。そのため、激安で大量に仕入れることが可能でした。その一方、ここ日本では渋谷系ムーブメントが先導し、ソフト・ロックが爆発的な人気を獲得、レコードへの大きな需要が生まれたのです。そう、いわゆるソフト・ロック特需です。

当然、日本のレコード屋は競い合うように仕入れを起こしたのですが、ソフト・ロックだけでひと財産を築き上げた「ソフト・ロック長者」なる者も現れました。某レコード店のオーナーが「世界一レコードを売った男」としてギネス認定されたのも、ちょうどこの時だったと思います。
その後、日本での過熱ぶりは凄まじく、中古レコードの市場価格が急騰。ここからは私も記憶が鮮明ですが、今から15年ほど前、今ではアンダー3,000円なThe Salt Water Taffyが1万5千円になったのをピークにバブルは崩壊、その津波のような人気は瞬く間に引いていってしまったのです……。

そして、2023年現在。The Millenniumとかロジャニコ(Roger Nichols and The Small Circle of Friendsのこと)とか一部の人気盤を除けば、その他大勢のソフト・ロックのレコードたちは、もう底値を超えたドン底値。改めて何かの媒体でフックアップされたりもしませんし、一向に人気を取り戻す気配すら見せません……。
そこでなんですが、これは私からの建設的な提案です。そう、今こそが買い占め時ではないかと思うんです。だって、ただ今流れが来てないというだけで、内容は最高中の最高なんですから。みなさん、時は来たのです!

ということで、今回はあの頃の数分の1のプライスで買えちゃう、底値のソフト・ロック名盤を一挙ご紹介します。ちなみに、今回はアメリカ縛りです。なお、いつもはレコードのレア度を掲載していますが、今回はズバリ現在の市場価格を載せておきます。掲載価格はこれだけあればキレイなのが買えますよっていう高めの設定ですので、もっと安く買えることも多いと思いますよ!

これをキッカケに、日本が生んだ素晴らしきジャンルを見直して見ませんか? ソフト・ロック・アゲイン!

 

Steam『Steam』

レーベル:Mercury
規格番号:SR 61254
発売年:1970
市場価格:500円

リード・トラックの「Na, Na, Hey, Hey, Kiss Him Goodbye」がビルボード1位のメガヒットを果たしたグループ。たまらなくソウルフルで最高な1枚ですが、完全にジャケの選択ミスで後年ナメられることに。

 

■ The Brady Bunch『The Brady Bunch Phonographic Album』

レーベル:Paramount Records
規格番号:PAS-6058
発売年:1973
市場価格:500円

テレビのホーム・コメディーから飛び出してきた、ゆかいなブレディー家。ゴリゴリにマッチョなファンキー・ブラス・ロック「Zuckerman's Famous Pig」や、泣けてくるSeals & Crofts「Summer Breeze」カバー等、あんなに愛くるしかった彼らも、最終作の本作ではすっかり本格派。だが、どこまでも安い。

 

■ The Cowsills『The Cowsills』

レーベル:MGM Records
規格番号:SE-4498
発売年:1967
市場価格:1,000円

こっちは本物の家族、カウシルさん一族によるデビュー作。ヒット・ナンバー「The Rain, The Park And Other Things」なんかは本当に美しい一曲ですが、今や悲しいほどにドン底値。

 

■ The Carnival『The Carnival』

レーベル:World Pacific Records
規格番号:WPS-21894
発売年:1969
市場価格:1,000円

ソフト・ロック・ファンが欲するエッセンスを特盛全部のせにして、バカラック「Walk On By」やロジャニコ「Love Is So Fine」等の大名曲をカバーされたら、そりゃあたまりませんよ! 土下寝モンの名作ですが、これまた死ぬほど安い。

 

■ The Love Generation『The Love Generation』

レーベル:Imperial
規格番号:LP-12351
発売年:1967
市場価格:1,000円

男女混成でワクワクウキウキとハーモニーする、心に燦々と太陽が降り注ぐようなサンシャイン・ポップ快作。今なら値段もウキウキ。

 

■ Paul Williams『Just An Old Fashioned Love Song』

レーベル:A&M Records
規格番号:SP 4327
発売年:1971
市場価格:2,000円

前作「Someday Man」やロジャニコは立派な値段するのに、なぜか安い本作。いやいや、名作度合いはまったく引けをとりませんけど。

 

■ Spiral Starecase『More Today Than Yesterday』

レーベル:Columbia
規格番号:CS 9852
発売年:1969
市場価格:2,000円

この1曲で白飯三杯食える、ソフト・ロック・アンセム「More Today Than Yesterday」を収録。安く買ってモリモリ食おう!

 

■ The Tradewinds『Excursions』

レーベル:Kama Sutra
規格番号:KLPS-8057
発売年:1967
市場価格:2,000円

フィル・スペクター門下生の超才能ソングライター・デュオ、アンダース&ポンシアが手掛けた一生聴ける超名作。でも、プライスは伸びない伸びない。

 

■ The Association『Birthday』

レーベル:Warner Bros.
規格番号:WS 1733
発売年:1968
市場価格:2,000円

オープニング「Come On In」の弾むベース・ラインが聴こえてきた時点で名作確定な、彼らのキャリア最高傑作。サイケデリックなアートワークも高そうな風格を醸すが、いかんせん安い。

 

■ The Cyrkle『Neon』

レーベル:Columbia
規格番号:CS 9432
発売年:1967
市場価格:2,000円

シタールなんかも取り入れて、適度なサイケ感を織り込んだ名作。ジョン・レノンが名付け親という巨大なバックを背にしても、今はとにかく安い。

ということで今回はここまで。またのご来店お待ちしております!

 

 

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Text:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千