【秘密レコード〜 レコ屋がこっそり教える、ヒミツのレコメンド】第18回「あの時のサウンドよ再び……新世代タイムスリップ・アーティスト5選」


ディスクユニオン新宿ロックレコードストア店長の山中明氏​​による連載コラム! レコード・バイヤーとして、そして1レコード愛好家として有名無名を問わず数知れない盤に触れてきた著者が、独自の視点でセレクトした推薦盤をその時々のテーマに沿って紹介していく連載です。

第18回は、「あの時のサウンドよ再び……新世代タイムスリップ・アーティスト5選」。これまでは主に1960〜70年代の音盤をピックアップしてきた本連載ですが、今回はそんな古き良き時代の空気も感じさせる新世代による名作をご紹介していきます。

あの時代を脳内によみがえらせてくれそうな音でありながら、これらの作品が生み出されたのはいずれも2000年代以降という驚きも。普段は1960〜70年代の音楽しか聴かないという方々にとっても、新たな出会いと喜びをもたらしてくれるかもしれません。

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いらっしゃいませ! Himitsu Recordsへようこそ!

みなさんは、どの時代の音楽がお好きでしょうか?
音楽の探し方なんて人それぞれですが、その作品選びをする時にあらかじめ時代を限定しちゃう方って案外多いと思います。具体的に言うと、1960〜70年代の音楽が好きだから2000年代以降の音楽は聴かない(その逆もまたしかり)とか、そんな作品選びのスタイルです。

こういうのって音楽の世界に限った話ではなくて、映画とか服とか、他の業界でも少なからず似たようなことがあると思います。その時々の時代には特有の空気感みたいなものが流れているもので、特定の作品というよりもそんな時代性が丸ごと好きになったりして、ある程度時代を絞り込んでその趣味を探求したりするのです。その時代が持つ空気感なんて、そう簡単には代替できないですしね。

とはいえ、現代にもいろいろなアーティストがいるもので、ただそれっぽい音を鳴らすだけではなくて、あの時そのままの空気感をよみがえらせたかのような、そんなタイムスリップじみたアーティストたちがいるものなのです。

ということで、今回は特に1960〜70年代のオールド・ロックを偏愛する、そんなアナタにオススメな新世代のアーティストたちをご紹介します。
別に時代を限定した聴き方が悪いワケじゃありませんが、たまには新しくて古き良き音楽、なんていうのもいかがでしょうか? ではごゆっくりご覧ください!

 

■ Brent Cash『How Will I Know If I'm Awake』

レーベル:Marina Records
規格番号:MA 71
発売年:2008年

彼の音楽を初めて聴いた時、心の底から度肝を抜かれたのを今でも鮮明に覚えています。本作は1968年あたりのソフト・ロック絶頂期に生まれた名作たちから、ある種の黄金比を抽出して現代に再現したかのような、デビュー作にしてパーフェクトな00年代ソフト・ロックの名作です。

やはり一聴して想起させるのは、ソフト・ロック界のアイコン、Roger Nichols & The Small Circle of Friends。あのサウンド、そしてあの空気感がお好きな方は、一発でハートを射抜かれること間違いなしです。

なお、彼は今までに他2枚のアルバムを残していますが、いずれもオススメできる好作となっています。

 

■ The Explorers Club『Freedom Wind』

レーベル:Dead Oceans
規格番号:DOC007
発売年:2008年

今まで星の数ほど存在したThe Beach Boysクローンたちの中でも、とりわけクリソツ度が高いのが彼ら。

デビュー・アルバムとなる本作は、美しいハーモニーやお馴染みのメロディ・ライン、そして凝りに凝ったアレンジは最高水準で、これでもかとたっぷり盛り込まれたオマージュにもニヤリとさせられます。
「あれ? コレってカバーかな?」と思うぐらい、とにかくモノマネ度は高いですが、その深すぎる愛と振り切り度には拍手を送りたい気持ちでいっぱいです。ちなみに、太っちょなほうがメイン・ヴォーカルでファルセットっていうのも、個人的には妙にツボですね!

彼らはその後もコンスタントに作品を残していますが、The Beach Boysのみならず、あの時代を丸ごと真空パックしたかのようなサウンドを作り続けています。要チェック!

 

■ Rumer『Boys Don't Cry』

レーベル:Atlantic
規格番号:5053105230716
発売年:2012年

「現代の1人カーペンターズ」と評される、イギリスが産んだ新世代の天才シンガーソングライター、Rumer。

彼女はソングライティングも素晴らしいのですが、やはりたおやかでどこか艶めかしいヴォーカルが魅力的ということもあって、2ndにしてカバー・アルバムとなる本作をチョイスしてみました。
ジミー・ウェブやトッド・ラングレン、ホール&オーツ等々、数多くのアーティストの名曲群を収録していますが、カバーが故にその声に強くスポットが当たり、より彼女の魅力が際立つ作品になっているかと思います。

2010年のデビュー以来、継続的に作品をリリースし続けていますが、その多くはCDとLPでアートワークや収録曲を変えたりと小技がきいていて、フィジカル愛好家にとってはたまらないアーティストでもあります。ラブ。

 

■ Rita Ray『A Life Of Its Own』

レーベル:Funk Embassy Records
規格番号:FER009
発売年:2023年

ついた異名は「エストニアのアレサ・フランクリン」。2019年のデビュー以来、新世代の東欧ディーヴァとしてその才を称賛される、エストニアのソウル~R&B系シンガーソングライター、Rita Rayによる2ndアルバムです。

アレサ・フランクリンの名が引き合いに出されるのも納得の実力派シンガーでありながら、ジャズの素養を持つ優れたコンポーザーとしての才を併せ持ち、さらには楽器演奏からオーケストラ・アレンジまでをも手掛けるという、傑出した才能を持った彼女。
そのどこまでも広がるタレンテッドなさまは、まさに新世代のシーンを象徴するアーティスト像として輝きを放っています。

ここ日本はもとより、諸外国でもまだまだ知名度の低いアーティストではありますが、一度でも音源を聴いてみてもらえれば、そのタイムレスな魅力に気づいていただけるはずです……マスト!

 

■ Catbug『slapen onder een hunebed』

レーベル:Cosmic Pet
規格番号:SEQ02LP
発売年:2022年

ベルギー郊外にある小さな農場を営みながら歌を紡ぎ、「ファーマー・ソングライター」を自称するアーティスト、Catbugことポーリーン・ロンドーの2ndアルバム。

全曲自作、華美な装飾なし。アコースティック・ギター、トイ・ピアノ、バーンスリー(インドの竹製横笛)等による穏やかなバッキングを背に、か細く透度の高い声でささやくように歌い紡がれています。
そして、この作品にはジュディ・シル、リンダ・パーハクス、ヴァシュティ・バニヤンといった、かつての非メジャー系女性シンガーソングライターのアイコンたちを正統後継するような、あの時代特有のフィーリングが流れているのです。

「人だけではなく、動物のためにも歌う」と自身が語るように、そのある種超然とした、音楽の向こう側を奏でたような本作は、時代を超えたタイムレスな1枚として聴き継がれていくことになるでしょう……。

ということで、今回はここまで。また次回のご来店をお待ちしております!

 

 

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Text:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千