【秘密レコード〜 レコ屋がこっそり教える、ヒミツのレコメンド】第21回「俺たちのニッチ・ポップ 〜 耳の隙間をつくマニアック・ポップス5選」


ディスクユニオン新宿ロックレコードストア店長の山中明氏​​による連載コラム! レコード・バイヤーとして、そして1レコード愛好家として有名無名を問わず数知れない盤に触れてきた著者が、独自の視点でセレクトした推薦盤をその時々のテーマに沿って紹介していく連載です。

第21回は、「俺たちのニッチ・ポップ 〜 耳の隙間をつくマニアック・ポップス5選」。著者も冒頭で触れていますが、“ニッチ・ポップ”と言われて即座にピンとくる人はなかなかに音楽の(レコードの)奥の細道に入り込んでいる方かもしれません。

“ニッチ”という言葉の意味通り、隙間をつくような…いわゆるサブカテゴリ的なジャンルではありますが、その中にも良質な作品はもちろん存在するわけで。今回はそんな隠れた良作たちを、秘密レコードならではの視点でご紹介していきます。

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いらっしゃいませ! Himitsu Recordsへようこそ!

みなさんはニッチ・ポップというジャンルをご存知でしょうか?

正直言って定義らしい定義もないですし、類似ジャンルでもあるモダン・ポップとも明確な境界なんてありません。ただ、好き者には「あのメロディーのあの感じ」みたいな不文律っぽいものが根付いていて、パッと聴けばすぐに判別できるとは思います。まぁ、これって他のジャンルにも言えることなんですけどね。

とはいえ、そんなんじゃさすがにワケが分からないので、ここでニッチ・ポップのざっくりとしたイメージは共有しておきましょう。

その中心地はイギリスで、The Beatles解散以降の1970年代に、その影響を色濃く受け継いだグループたちが生んだサウンドです。人懐っこくてウキウキとさせられるようなメロディー・ラインと、職人気質、ないしオタク的なセンスが溢れ出すバッキングとが掛け合わされた、新しい時代の到来を予感させる新世代のポップスといった塩梅だったのです。

ただ、ソングライティングもスキルも抜群で、いつメジャー・ヒットしてもおかしくなかった彼らなんですが、どこかストレートに表現できない(しない)ひねくれマインドを持ち合わせていて、その多くは良くてもプチ・ヒット止まり。そのため、今ではいわゆる「B級」扱いされることもある彼らですが、多種多様な趣味嗜好を持つ現代の音楽ファンにこそ、このまさに「耳の隙間」を突いてくるようなサウンドが響くのではないかと思った次第です。

ということで、今回は音楽史の狭間に生まれた、ニッチ・ポップの私的オススメ曲たちをご紹介させていただきます。ただ、先ほども述べたように、いかんせんこのジャンルってフワッとしたものなので、紹介するグループ自体が必ずしもニッチ・ポップにカテゴライズされているワケではありません。
なんかややこしい話なんですが、要はフォークでもプログレッシヴ・ロックでも、いろいろなジャンルのグループが産んだ作品の中に、良質なニッチ・ポップが潜んでいますよっていうことなんです。

まぁ、細かいカテゴライズ話はさておき、とりあえず最高な曲には変わりませんし、その大半が中古市場では安く取引されていますんで、深く考えずにゲトって聴いてみてくださいね! ぜひ!

 

※レアリティーとは

オリジナル盤の希少度を星印で表現しています。最大は6星。

★☆☆☆☆☆ 定番:買いやすくて好内容

★★☆☆☆☆ 王道:一家に一枚

★★★☆☆☆ 希少:試されるのはレコードへの情熱

★★★★☆☆ 財宝:これであなたもお金持ち!

★★★★★☆ 遺産:金銭よりも入手機会獲得の難度

★★★★★★ 神器:世界が一丸となって守り抜くべき聖杯

 

Fox「Strange Ships」

収録アルバム:『Tails Of Illusion』
発売国:UK
レーベル:GTO
規格番号:2321 106
発売年:1975
レアリティー:☆☆☆☆☆(1/6)

原盤は非常にお高いことでも知られる、ブリティッシュ・フォーク・グループ、Wooden Horseのスーザン・トレイナーをヴォーカルに据えた、プチ・ヒット・グループの2ndアルバム収録曲。ちなみにですが、彼女はこのグループではヌーシャ・フォックスと名義を変えています。

聴き初めは彼女の甘々スウィートなヴォーカルにグッとくる、ネオアコの先駆けライクな好曲って感じなんですが、2分50秒辺りから突如異変が発生します。本当になんの前触れもなくてムリヤリにもほどがあるんですが、唐突に別録りの男性ヴォーカル・ヴァージョンにスイッチングするという荒技をやってのけちゃうんです。
さらに、そんな違和感バリバリの中、また急ハンドルで女性ヴォーカルのサビに戻ってみせたりなんかして、ニッチ・ポップ・ファンならばブチ上がらずにはいられないアレンジが盛り盛りに仕込まれています。

 

■ Jim Rafferty「Only Have To Look In Your Eyes」

収録アルバム:『Solid Logic』
発売国:UK
レーベル:Decca
規格番号:SKL-R5314
発売年:1979
レアリティー:☆☆☆☆☆(1/6)

ジェリー・ラファティの実弟で才能に溢れながらも、その存在自体がニッチ(失礼!)な彼。
本作は彼の2ndソロ兼最終作ですが、1stは英米日ほか各国でリリースされたにも関わらず、英盤のみしか作られなかったやっぱりニッチな1枚。

でも、兄に似た甘いメロディー・ラインでつづられた曲の数々は、メロディー・メイカーとしての確かな才能を感じさせます。変なバイアスなしに聴いてみましょう。ナイス!

 

■ Smith & D'Abo「Running Away From Love」

収録アルバム:『Smith & D'Abo』
発売国:UK
レーベル:CBS
規格番号:S81583
発売年:1976
レアリティー:☆☆☆☆☆(1/6)

The Dave Clark FiveとManfred Mannの合体コンビによる名曲。
2人のヴォーカル、そしてソングライティングは最高ですが、レイ・ラッセル、モ・フォスター、デイヴ・マーキー等とバック陣も最高のいぶし銀。
これぞニッチ・ポップ・アンセム!

 

■ Klaatu「Mrs. Toad's Cookies」

収録アルバム:『Magentalane』
発売国:CANADA
レーベル:Capitol
規格番号:ST-6487
発売年:1981
レアリティー:★★☆☆☆☆(2/6)

当時は「The Beatlesの覆面グループ」という噂がまことしやかに囁かれていた、レジェンド級モダン・ポップ・グループのラスト・アルバムにひっそりと収録。

この曲は別にリード・トラックでもないですし、決して派手で目立つような曲でもないんですが、たまらなくキュートで小気味好く弾むサウンドが、私たちのニッチ心をくすぐってくるのです。愛らしさMAXのCメロで胸キュン卒倒間違いなし!

 

■ Supersister「She Was Naked」

収録アルバム:『Superstarshine Vol. 3』
発売国:Holland
レーベル:Polydor
規格番号:2419 030
発売年:1972
レアリティー:☆☆☆☆☆(1/6)

先ほどのFoxの曲と同様に、曲中であまりに大胆に豹変する曲のことを「ギズモ・ソング」と呼んでいるんですが、この曲はまさにそれを地で行く代表的な1曲です。
あ、ちなみにこの呼び方ってまったく一般的ではないと思いますので、他の人に使ってポカーンとされても責任は持ちません。

Supersisterはオランダ出身ではあるものの、イギリスのSoft Machine一派が生み出した、カンタベリー・ミュージックと高い親和性があるグループです。

そんなこともあってか、この曲も序盤こそ牧歌的で柔和なメロディーを歌い上げていますが、曲中盤にはけたたましいファズ・ベースが先導する、実にシネマティックな展開へと突入します。
このブラック・ユーモアが利いた壮大で転げ落ちるようなアレンジは、まさにカンタベリー・スタイルとも言えるんですが、Queen「Bohemian Rhapsody」スタイルとも言えるのかもしれません……って、それは言い過ぎですかね?

ということで、今回はここまで。また次回のご来店をお待ちしております!

 

 

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Text:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千