【秘密レコード〜 レコ屋がこっそり教える、ヒミツのレコメンド】第19回「獄中レコード 〜 懺悔かエゴか、受刑者たちが遺した名作レコード5選」


ディスクユニオン新宿ロックレコードストア店長の山中明氏​​による連載コラム! レコード・バイヤーとして、そして1レコード愛好家として有名無名を問わず数知れない盤に触れてきた著者が、独自の視点でセレクトした推薦盤をその時々のテーマに沿って紹介していく連載です。

第19回は、「獄中レコード 〜 懺悔かエゴか、受刑者たちが遺した名作レコード5選」。音楽に限らず、芸術全般に言えることかもしれませんが、いわゆる聖人君子や品行方正な人が優れた作品を作るとは限りません。逆に素晴らしい作品を生み出す人が、例えば気難しくて他人を寄せ付けなかったり、こだわりが強すぎたりするがゆえに、“性格が悪い”“人格的に問題がある”など言われてしまうことも。

もちろん下記に取り上げた人たちの犯罪を肯定するわけでは一切ありませんが、それはそれとして、“こういう音楽もある”という視点で見ていただければ幸いです。行き過ぎて破綻した人生を歩む者ならではの音楽、それは日常生活では出会えない刺激や体験を与えてくれるものになるかもしれません……。

秘密レコード_01


いらっしゃいませ! Himitsu Recordsへようこそ!

アーティストって少し風変わりな人が多いもので、中には行き過ぎて破綻した人生を歩む者も少なくありません。薬物に手を出して云々なんていうのは日常茶飯事で、中には社会的事件を巻き起こす者さえもいるのです。

その中でもとりわけその名を深く歴史(の暗部)に刻んだのは、カルト集団ファミリーの指導者、チャールズ・マンソンでしょう。

凄惨な事件となった「テート・ラビアンカ殺人事件」をはじめ、確かに彼の犯した罪は非常に重いものでした。しかし、アーティストとしてその才が輝いた瞬間があったのもまた事実。後年、彼のペンによる楽曲をGuns N' RosesやThe Lemonheadsらがカバーしたのも、決して彼の思想を信奉するものではなく、純粋に楽曲としての魅力を高く評価していたのではないでしょうか。

ちなみに、彼が遺した作品については、すでに第1回「夜トイレに行けなくなる……真夏の怪談サイケ」で取り上げていますので、あわせてご一読いただけると幸いです。

ということで、今回は罪を犯した者たちが悔い改めたかったのか、それともその衝動を抑えられなかったのか、受刑者たちが「獄中」で作り上げた特殊事情レコードたちをご紹介します。
彼らが吐き出したサウンドは千差万別、何か得体の知れないものに当てられるかもしれませんが、一度ご自身の耳で体験してみてください……。ぜひ!

 

※レアリティーとは

オリジナル盤の希少度を星印で表現しています。最大は6星。

★☆☆☆☆☆ 定番:買いやすくて好内容

★★☆☆☆☆ 王道:一家に一枚

★★★☆☆☆ 希少:試されるのはレコードへの情熱

★★★★☆☆ 財宝:これであなたもお金持ち!

★★★★★☆ 遺産:金銭よりも入手機会獲得の難度

★★★★★★ 神器:世界が一丸となって守り抜くべき聖杯

 

Bobby Beausoleil & The Freedom Orchestra『Lucifer Rising』

発売国:Canada
レーベル:Lethal Records
規格番号:ACR 8031
発売年:1980
レアリティー:(4/6)

アンダーグラウンド映画界のカルト・スター、ケネス・アンガーの最高傑作『Lucifer Rising』のサウンドトラック・アルバム。

一時期はかのミスターLed Zeppelin、ジミー・ペイジがその制作を手掛けるも仲違い。その後、最終的に制作に乗り出したのが、チャールズ・マンソン率いるカルト集団ファミリーの中核メンバーにして、殺人罪による終身刑真っ只中のボビー・ボーソレイユでした。

主演のマリアンヌ・フェイスフルにして「ヘロインをキメながら3回観ないと理解不能」と言わしめるほどの、ブッ飛んだアヴァンギャルド映像を見事なまでに聴覚化した名作です。ヤバい。

 

■ Shmulik Kraus『A Criminal Record』

発売国:Israel
レーベル:Hataklit
規格番号:DD-35127
発売年:1977
レアリティー:★★★(5/6)

イスラエル・ソフト・ロックの金字塔トリオ、The High Windowsのメンバーによるソロ・アルバム。彼は重度の躁うつ病を患っており、度重なる蛮行が災いし服役。本作には、刑期中に獄中で書かれた楽曲が収録されています。

そんな本作は素朴な歌を中心に置きながらも、サイケデリックなアレンジメントがふんだんにまぶされており、一筋縄でも二筋縄でもいかないサウンドが詰め込まれています。

中でも注目したいのは、The Beatles「Mother Nature's Son」のカヴァー。原曲の朴訥としたムードはどこへやら、性急なファズ・ギターによるカッティングがドライブする、躁状態のサイケデリック・カヴァーが11分30超に渡って繰り広げられます。ドープ!

 

■ The Edge Of Daybreak『Eyes Of Love』

発売国:US
レーベル:Bohannon's Records
規格番号:005074
発売年:1979
レアリティー:★★★(5/6)

武装強盗団の受刑者たちによるソウル&ファンク・アルバム。
ディズニー映画『ポカホンタス』でもお馴染みのネイティブ・アメリカンの部族、ポウハタンだった彼らは、政策の一環により刑務所内でも楽器を持ち演奏をすることが許されており、本作の制作を可能としたようです。

モノトーンで構成されたジャケットには監獄と顔が大きくあしらわれ、その出自をうかがわせる不穏なムードが漂っています。しかし、そこに収められた楽曲群はまさに極上の一言。
Earth, Wind & Fireばりのアガるディスコ・ファンク・ナンバーから、思わずとろけてしまいそうな極甘のスウィート・ソウルまで、全曲一発録りで録音されたフレッシュで特濃の名サウンドが堪能できるのです。ディープ!

 

■ Burzum『Hliðskjálf』

発売国:Canada
レーベル:Misanthropy Records
規格番号:AMAZON 021
発売年:1999
レアリティー:(4/6)

血塗られたノルウェー・ブラック・メタルの皇帝、Burzumことヴァルグ・ヴィーケネスによる獄中作。

教会の放火、対立アーティストの殺害等により投獄された彼ですが、服役中に2枚のアルバムを制作しています。録音の際に使用許可された楽器はシンセサイザーだけだったということもあり、けたたましくノイジーなギターに覆われた初期の作風とは全く異なる、全編インストゥルメンタルで構成されたダーク・アンビエントとなっています。

ここに広がっているのは、暗く荒涼としていながらも、奥底で蒼白く光る美しき世界。踏み出すべきかどうかはあなた次第。

 

■Prisoners At The Ramsey And Retrieve State Farms, Texas『Negro Prison Camp Worksongs』

発売国:US
レーベル:Folkways Records
規格番号:FE 4475
発売年:1956
レアリティー:★★☆☆(2/6)

時は1951年。米テキサスにある2つの刑務所の農場で録音されたこのアルバムは、ブルースの祖とも言えるアフリカ系アメリカ人による伝統的な労働歌が収められています。

そのルーツは奴隷制にまで遡ります。繰り返される果てなき重労働の中、自らの心を支え、皆で団結を呼びかけるために歌われた労働歌の数々は、かつての悪しき日々を現在にまで歌い継ぐかのような、ドキュメンタリー・ソングとして今現在の私たちに迫るのです。リアル!

ということで、今回はここまで。また次回のご来店をお待ちしております!

 

 

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Text:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千