【秘密レコード〜 レコ屋がこっそり教える、ヒミツのレコメンド】第13回「スクールもの 〜 みんなで渡れば怖くない、学生たちが残した異形の名作5撰」

ディスクユニオン新宿ロックレコードストア店長の山中明氏による連載コラム! レコード・バイヤーとして、そして1レコード愛好家として有名無名を問わず数知れない盤に触れてきた著者が、独自の視点でセレクトした推薦盤をその時々のテーマに沿って紹介していく連載です。
第13回は「スクールもの 〜 みんなで渡れば怖くない、学生たちが残した異形の名作5撰」。一見聞き馴染みのないカテゴリーのようでいて、実は日本でも「●●卒業記念アルバム」のような形で昔から学校、あるいはサークル単位で作られていたりします。ただ、基本的には音楽の授業で習うような有名曲や当時の人気ポップスのカバーが中心で、思い出の品という域を出ない作品が大半なのですが…。今回はそんな中に紛れて産み落とされた、まさしく“異形”と呼ぶべき名(迷)盤の中からとっておきの5枚(北米編)をご紹介!
なお、以下に記載のレアリティーはあくまでもオリジナル盤の希少度になります。多くはCDやアナログ盤で再発されていたり、音楽配信されていたりもしますので、もし気になったものがありましたら、まずはインターネット上でディグするところから始めてみてはいかがでしょうか? そこには、底知れぬ深淵が待ち構えているかもしれませんが…。
いらっしゃいませ! Himitsu Recordsへようこそ!
この連載を読んでいただいているみなさんの中には、学生時代に音楽系の部活とかサークルに入ってたよっていう方も少なくないでしょう。
正直、私はあんまり経験がないので詳しいことは分からないんですが、やっぱりいつの時代も活動の記録としてその時の演奏を録音したりするもんですよね?
私の世代ではカセットかMD(!)でっていうのが相場でしたが、今はスマホないしPCを使えばイージーに録音できちゃうと思います。しかし遡ること1970年代、当然あの頃も同じようなことをしていたんですが、レコード全盛期ともなるとそこはアナログ全開で、溝にその活動の記録を刻み込んでいたというワケです。
今ではそういった学生たちが残したレコードは、一部では「スクールもの」と呼ばれています。ただ、コレはかなり俗っぽいジャンル名なのであまり一般的ではないのかもしれませんが、コレはコレでなんとなく定義付けっぽいものもあります。
「スクール」なのでたしかに学生が録音したものには違いないんですが、学生たちが個々に結成した単体バンドのようなものは含めず、学校単位で録音したオムニバス形式のものをカテゴライズする、というように仕切られているんです。まぁとはいえ、かなり甘々な仕切りなんですけどね……。
ということで、今回はそんな「スクールもの」の中でも、とりわけエッジの効いた名(or 迷)作たちをご紹介します。なお、今回は北米に限定して選盤しています。
その多くが再発なし、サブスクなし、入手しやすくもなしと、3拍子そろっているのが玉にキズですが、へヴィー・コレクターな方、ないし志す方は参考にしてみていただければ幸いです。ぜひ!
※レアリティーとは
オリジナル盤の希少度を星印で表現しています。最大は6星。
★☆☆☆☆☆ 定番:買いやすくて好内容
★★☆☆☆☆ 王道:一家に一枚
★★★☆☆☆ 希少:試されるのはレコードへの情熱
★★★★☆☆ 財宝:これであなたもお金持ち!
★★★★★☆ 遺産:金銭よりも入手機会獲得の難度
★★★★★★ 神器:世界が一丸となって守り抜くべき聖杯
■ Langley Schools Music Project『Innocence & Despair』
発売国:US
レーベル:Gammon Records
規格番号:GMN2105 RJ-2
発売年:2001
レアリティー:★★☆☆☆☆(2/6)
まずご紹介するのは、今回の5枚の中では飛び抜けてメジャーで、繰り返し再発もされているため、容易にCDやレコードが入手できる1枚です。
本作はカナダのブリティッシュ・コロンビア州にある、ラングレーという学区内のいくつかの小学校の生徒たちを体育館に集めて録音された、世にも奇妙なアウトサイダー合唱団による名品です。
子供たちが大勢集まって演奏し合唱する、その字面だけは普通なんですが、まず選曲がちょっと風変わり。「Good Vibrations」「God Only Knows」「Band On The Run」と、およそ小学生の合唱団には不向きな選曲が徹底されており、歌自体もなんだか不穏なバイブスが充満しています。
そして、そんな心ザワつく本作の中でも、デビット・ボウイの名曲「Space Oddity」のカバーは白眉の出来です。子供たちの拙くプリテミィヴな演奏、脅迫的なカウントダウン、純真が過ぎて狂気じみた合唱が織りなす、これぞ世紀のアウトサイダー・アンセムと呼ぶべき名カバーです。
ただ、そんな飛び道具的な迷曲だけではなく、女の子が独唱する「Desperado」は感涙モノの名演となっており、ただの奇妙奇天烈な作品に留まってもいない、紛れもない名作といえましょう。
なお、実はこれって2LP仕様の再発盤で、ちゃんと原盤も存在しています。原盤は『Glenwood Region Music Group』(1976)と『Wix-Brown Elementary School』(1977)という2枚の作品で、本作はそれらをコンパイルして再発したものとなっています。原盤はいずれも堂々6星の鬼レア盤なのでお覚悟を!
■ V.A.『Tool Shed』
発売国:US
レーベル:RPC
規格番号:19291/2
発売年:1971
レアリティー:★★★★★☆(5/6)
アメリカはニューヨークにある、マンハッタン・カレッジの学生たちによる作品集。多くの学生が参加していることからもバラエティーに富んだ楽曲が収められていますが、基本的には全てオリジナル曲で構成されています。
そのサウンド・テクスチャーや、学生たちの写真がコラージュされたアートワークが醸す雰囲気からも、アルバム全体はただならぬサイケデリック・ムードに覆われています。ピアノやバイオリンがドライブする派手なサイケデリック・ロックを打ち鳴らすA1「The Kingdom Come」やB2「Court Roger」、儚くも美しいメロウ・アシッド・フォークA5「Time And Changes」等、多くの曲で高い水準が保たれており、一筋縄でも二筋縄でもいかない名品となっています。
また、本作が米自主盤界の魔窟的レーベル、RPCからリリースされているということも、多くのサイケデリック・ミュージック・コレクターから愛されて止まない理由のひとつでしょう。
■ Plainview High School『Guys N' Dolls』
発売国:US
レーベル:—
規格番号:—
発売年:1978
レアリティー:★★★★★☆(5/6)
続いてご紹介するのは、とりわけレアで、再発もされていないことからも、コレクター・シーンの中でも知名度の低い奇作です。
オクラホマにある高校、プレインビュー・ハイスクールの学生たちによるプロジェクト・アルバムである本作は、ロバート・パーマー「Bad Case Of Loving You」、Toto「Hold The Line」、グロリア・ゲイナー「I Will Survive」等、全てヒット・チューンのカバー・ソングとなっているものの、時代がかったメタリックなディストーション・ギターをはじめとした、青春爆発の演奏にたまらなく惹きつけられます。
なお、個人的にはそんな青春ギターが一際輝く、Fleetwood Mac「Black Magic Woman」カバーがお気に入りです。
■ The Ambassador College Band & New World Singers 『Spread Some Sunshine』
発売国:US
レーベル:—
規格番号:—
発売年:1974
レアリティー:★★★☆☆☆(3/6)
これまで奇妙な作風の音楽が続きましたが、カリフォルニア州パサデナのリベラル・アーツ・カレッジの学生たちによる本作は、健やかでまっすぐなソフト・ロック〜CCMの名作です。
ここに詰まった全ての楽曲たちは、男女混声による極上のハーモニーと、プロフェッショナルなバッキングによって丹念に作り込まれており、全く隙のないメジャー・クオリティーが貫かれています。中でも、小気味良いギター・カッティングが先導するB3「Smile Upon Your Brother」は、一発でソフト・ロック・ファンのハートを射抜く悶絶の名曲でしょう。
彼らは全部で3枚のアルバムを残していますが、いずれも素晴らしい内容なので要チェックです!
■ Context 70『Context 70』
発売国:US
レーベル:—
規格番号:—
発売年:1970
レアリティー:★★★★★☆(5/6)
最後にご紹介するのは、最も異端な「スクールもの」ともいえる、まさに禁断の果実的1枚です。
ニューヨークのサウス・サイド・ハイスクールの学生たちによって制作された本作は、ラジオ番組風のイントロダクションで幕を開け、能天気に「Happy Mother's Day」の合唱に勤しむも、ジキルとハイドよろしく、A面中盤から全てが一変します。
突如つんざく電子音が耳を突いたかと思うと、過剰にエフェクティヴなギター、半狂乱のドラム、豪胆なフィードバック・ノイズが交錯するA6「Gertrude」を筆頭に、特濃のサイケデリック〜エクスペリメンタル・サウンドが溢れ出すのです。
そして、本作のハイライトともいえるロング・トラックのB7「Pickengratchen」は、壊れたファミコンのような音色のオルガンと、ザラリとしたファズ・ベースが爆音でユニゾンし、繰り出されるフリーキーなギター・ソロとともに全てが破壊的なノイズへと収束する、これぞストレンジ・サイケデリアの極北と呼ぶに相応しい名曲でしょう。
そのインパクトは他に類を見ないほどに壮絶極まりなく、初めてこの曲を聞き終えた者は、ただただ呆気にとられ立ち尽くすのみ。怖いモノ知らずなそこのアナタ、ぜひ一度この劇物をお試しください……。
ということで今回はここまで。またのご来店お待ちしております!
Text:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千