【秘密レコード〜 レコ屋がこっそり教える、ヒミツのレコメンド】第17回「レコード獣道 〜 かき分け踏み固めてくれたディスクガイド5撰(サイケデリック・ロック編)」


ディスクユニオン新宿ロックレコードストア店長の山中明氏​​による連載コラム! レコード・バイヤーとして、そして1レコード愛好家として有名無名を問わず数知れない盤に触れてきた著者が、独自の視点でセレクトした推薦盤をその時々のテーマに沿って紹介していく連載です。

第17回は、「レコード獣道 〜 かき分け踏み固めてくれたディスクガイド5撰(サイケデリック・ロック編)」。前回は「レコード・ジャンキーになるための指南書5撰」をご紹介したわけですが、今回はそこからさらに一歩踏み入り、まさしく“獣道”に導くかのようなディスクガイド本をピックアップします。

ちなみに本連載の扉絵に描かれている「HIMITSU RECORDS」のウィンドウに飾られているレコードも、いわゆるサイケデリック・ロックのメガレア&マスターピースなわけです。そう、ある意味、「秘密レコード」の御本尊とも言えるものに触れるきっかけとなりそうな名著の数々が今ここに…!

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いらっしゃいませ! Himitsu Recordsへようこそ!

気のせいじゃないかもしれませんが(たぶん気のせい)、時間の流れが年々早くなってきています。ついこの間、私たちの年が明けて最初の繁忙期、ゴールデンウィークが終わったと思ったんですが、ハッと気づけば今や年末セールの真っ只中。うーん、恐ろしい……。

そして、なんだかんだであっという間に今年最後となったこの記事も、あれよあれよと第17回目。今までいろいろなレコードをご紹介してきたワケですが、この記事の元々のコンセプトって、あまり他で仕切らないような括りで音楽を紹介して、作品たちにまた違う角度から光を当ててみよう、なんていうものなんです。まぁ言ってみれば、変化球版ディスク・ガイドみたいなイメージですかね?

まぁそうなったのも、サブスクでイージーに大量な音源にアクセスできる世の中だからこそ、今こそ改めてディスクガイド的な道標が有用だと思ったのです。加えて、さらに新しいカテゴライズが進められることによって、思ってもみなかったところからお気に入りの音楽が見つかるかもしれませんしね!

ということで、前回はレコード・ジャンキーになるための必読書をご案内しましたが、今回はオススメの「ディスクガイド本」をご紹介したいと思います。
ただ、ちょっと挙げ出したら名著がザクザクと出てきてしまいましたので、まず今回はサイケデリック・ロックに絞って5冊セレクトしてみました。

これらの本がリリースされた当初って、まだサブスクやらYouTubeやらがない時代。幻のレア盤みたいなものが掲載されているのを見て、その音をただ指をくわえて夢想するか、とんでもない大枚叩いて原盤を買うかしかできなかったワケですが……今は良い時代になりましたね! まぁだからこそ、今こそ見直されるべきディスク・ガイドたちだとも思ったのです。

これを機に、年末年始とかにゆっくり読んでみるのも良いかもしれませんね。ではご覧ください!

 

■ Hans Pokora『Record Collector Dreams』

出版社:自費出版
発売年:1998〜2022年

サイケ〜プログレのこの世に存在する地獄のレア盤たちをコレでもかと集めた一冊。通称「ポコラ本」。
メインの著者はオーストリア出身のコレクター、ハンス・ポコラという人で、いわば世界のコレクターの顔役みたいな方です。

今やサイケデリック・ロック・シーンの中でも絶大なプロップスを得ているこの本は、不定期刊行のシリーズものとなっています。記念すべき第1号『1001 Record Collector Dreams』がリリースされたのは1998年。以降、コンスタントにリリースされていて、2022年には最新号となる第9弾『9001 Record Collector Dreams』がリリースされています。

そして、この本の特筆すべきことは、なんら情報が書かれていないという点です。ジャケットの写真とジャンル名、そして「Star(星)」と呼ばれるレア度を表すマークが掲載されているだけで、その情報量はあまりに淡白。めくってもめくっても、ただただ淡々と鬼のように凄まじいレア盤が並ぶだけなのです。

しかし、その潔さがかえって想像力を掻き立てたりするもので、瞬く間に世界中のコレクターたちのハートを射止めることとなったのです……。もちろん特濃のラインナップありきではあるんですけどね。
自費出版の洋書で取扱店も多くなく、値段もけっこうしちゃうんですが、文句なしにオススメの本ですよ!

ちなみに、そんなポコラ氏はありとあらゆる手を使って世界中の鬼廃盤を集めているワケですが、私とは海外の(ハンマープライス形式の)オークションとかで競り合う、ちょっとしたライバルでもあります。まぁ彼はなかなかの漢気ビッドをするんで、手強いんですよコレが……次は負けないぞ!

 

■ Vernon Joynson『Fuzz, Acid and Flowers』

出版社:Borderline Productions
発売年:1993年〜2010年

ポコラ本がビジュアル&コレクター目線なディスク・ガイドだとすると、こちらは詳細を突き詰め倒してハンパじゃない情報量を詰め込んだ、アメリカン・ガレージ〜サイケデリック・ロックの百科事典。もうこの筋のバイブルって言っても良いと思います。

ディスコグラフィーやバイオグラフィーに始まり、音源のレビューから原盤のレアリティー、果てはCDの再発状況までをも432ページに渡って克明に記録した大ボリュームの1冊なんですが、10年の時を経てリリースされた改訂版『〜 Revisited』は、なんと総ページ数が1,108ページと激増。さらに、2010年にはさらに300ページ増の1,408ページと、もう手がつけられなくなった『〜 Expanded Edition』なるものもリリースされています。
しかも、通常のペーパーバック版に加え、限定仕様でフェイクレザーのハードカバー版も存在しています。ただでさえ超重量級の1冊ですが、限定版は(マジで)腰抜けそうなぐらい重いのでご注意ください!

ちなみに、著者のヴァーノン・ジョンソン氏は他シリーズも書いていて、イギリス編となる『The Tapestry Of Delights』、南米〜カナダ編『Dreams, Fantasies & Nightmares』もリリースしています。特に前者は『Fuzz, Acid and Flowers』以上の爆重量仕様(2冊計2,000ページ超!)もリリースされていて、いろんな意味でキケンです……腰にも気をつけて!

 

■ Patrick Lundborg『The Acid Archives』

出版社:自費出版
発売年:2006年 / (増補改訂版)2010年

ポコラ氏をオーバーグラウンド・サイドのサイケ・コレクターの顔だとすると、アンダーグラウンド・サイドの顔こそが本書の著者にして、スウェーデン出身のサイケデリック・ミュージック研究者、パトリック・ルンドボルク氏でしょう。

彼の代表作『The Acid Archives』は、アメリカとカナダのサイケを題材としたディスク・ガイドで、丁寧な解説が書き込まれたその作りは『Fuzz, Acid and Flowers』の類似書とも言えるのかもしれません。ただ、よりアカデミックで深く、サイケデリック・カルチャーの研究書ともいえる内容となっています。
彼はストックホルム大学にて古典哲学や宗教史も修めた学者肌の人物ということもあり、ただのコレクターというよりも研究者としての側面が強く、著書は他ディスク・ガイドとも少し毛色が異なりますが、紛れもないシーンを代表する名著でしょう。

彼はその他にも、よりその対象範囲を広げた本『Psychedelia』や、自身のサイケデリック・ウェブサイト「Lysergia.com」等を運営し、シーンに大きな影響力を誇っていました。惜しくも2014年に逝去。

 

■ 『レコード・コレクターズ 2002年 7月号』

出版社:ミュージック・マガジン
発売年:2002年

私たちお馴染みの月刊音楽誌ですが、本号に掲載された特集「サイケデリックの狂乱」は、ここ日本でのサイケデリック・ロックの羅針盤として、多大なる影響を及ぼしました。
その影響力たるや、私と同年代ぐらいの日本人のサイケ・ファンであれば、この特集を読んだことない人ゼロ人説が立証できると思います。今でも特集冒頭の「The New Tweedy Brothers」のジャケ写を見ると、何だかすごくエモい気持ちになりますよね……。

なお、本特集は過去の特集記事を再録した増刊号、『レココレ・アーカイヴス』の第6弾『サイケデリック&エクスペリメンタル』にも収録されていますので、未読の方はいずれかで入手しておきましょう!

 

■ 山中 明 他『PSYCHEDELIC MOODS ‐ Young Persons Guide To Psychedelic Music USA/CANADA Edition』

出版社:ディスクユニオン
発売年:2010年

オレらはシンコーの子供たち。日本の音楽ファンであればそう言いたくなるぐらい、誰もがお世話になりまくってる超定番ディスクガイド・シリーズにおいてもリリースはなく(アシッド・フォークはあります)、ここ日本ではなぜかすっぽり抜け落ちていた、サイケデリック・ロックのディスクガイド。
本書はそんな中、もうないなら作っちゃえという安易な発想から生まれた、私とその仲間たちによるディスクガイドです。まだ全員ギリ20代だった若気の至りということもあり、今読んでみると言説に何だか違和感もありますが、この時は我ながら頑張って作ったと思います。

当時はそれなりに売れたので良かったんですが、それも坂本慎太郎氏に描いていただいた表紙のパワーが大きかったと思います。ちなみに、氏との表紙の打ち合わせは、ゆらゆら帝国のライヴ前の楽屋で行ったんですが、終了後に見せていただいたライヴで突然バンドの解散を発表するという、とんでもサプライズな出来事もあったものです。

本書は絶版となって久しいので、改めて増補改訂版でも出そうかな、と最近思ったりもするんですが……そんな声があれば真剣に考えてみたいと思います。

ということで、前回に続き最後は自分の本で締めくくる、そんなゴリゴリの宣伝記事でした! ではまた次回!

 

 

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Text:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千