【秘密レコード〜 レコ屋がこっそり教える、ヒミツのレコメンド】第16回「終わりの始まり? レコード・ジャンキーになるための指南書5撰」


ディスクユニオン新宿ロックレコードストア店長の山中明氏​​による連載コラム! レコード・バイヤーとして、そして1レコード愛好家として有名無名を問わず数知れない盤に触れてきた著者が、独自の視点でセレクトした推薦盤をその時々のテーマに沿って紹介していく連載です。

第16回は、「終わりの始まり? レコード・ジャンキーになるための指南書5撰」。今回はいつもとちょっと違う切り口で、レコードそのものではなく、レコード本をご紹介していきます。近年のレコード・ブームで、その関連本も数々出ているかとは思われますが、「秘密レコード」ならではの角度からセレクト! 

初心者向けの入門編というよりは、レコード・ジャンキーへの禁断の扉を開けてしまうきっかけになりそうなディープかつドープな名著を選出しております。以下の紹介文を読んで少しでも興味を持たれた方はぜひ現物を手に取られて、深淵(or奈落!?)へのガイド本にしていただければと…! 

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いらっしゃいませ! Himitsu Recordsへようこそ!

みなさんはこの世の中にある本って、何冊ぐらい存在すると思いますか? 

急にこんなこと言い出しておいてなんですが、経てきた年数が年数ですし、私にはどれぐらいの桁数なのかも皆目見当がつきません。 
そして、それは我らがレコードにも同じようなことが言えると思いますが、この2つがかけ合わさったもの、つまりレコード関連本というのはそれほど多くないような気がします。教則本とかディスクガイドとか、音楽本と範囲を広げるとリリース量は多いんですが、レコードだけに絞ってしまえば極端にその数を減らすと思うんです。 

でも、その理由に心当たりがないワケでもありません。ここ25年ぐらいを振り返ってみると、本とレコードの売上の推移は正反対の動きを見せています。 
まだまだ雑誌なんかも元気いっぱいだった2000年代初頭、今ではとても考えられないほど(特に新品)レコードは冷遇されまくっていたのです。これは現場の一員としてのリアルな実感です。 
となれば、売れる気配なんてまったくしない、そんな無風状態のレコードのことを本にしようなんて、そんな気分にならないのは至極当然だったのかもしれません。 

近年になって『はじめてのレコード』(レコードはじめて委員会 / DUBOOKS / 2015年)のような初心者向けの指南書も出てきたんですが、もっと踏み込んだ、そう、レコード・ジャンキーたちとその予備軍が読むべき本はかなり希少で、多くの方の目に触れず埋もれていっているのかもしれません……って、そうはさせるか! 

ということで、今回はこの世に存在する数多の本の中から、あなたのレコード・ジャンキー心の扉をノックする、素晴らしきレコード本たちをご紹介します。 
なお、純粋なレコード本ではないので省きましたが、個人的に最も好きな音楽本は『ブリックヤード・ブルース』(キーフ・ハートリー他著 / ‎ブルースインターアクションズ / 2005年)です。マジでこんな良い本、他に知りません。 
あと、惜しくも選外としたのが、世界のレコード・ジャンキーたちの写真とインタビューがクールに飾られた本、『Dust & Groove』(Eilon Paz他著 / Ten Speed Press / 2015年)です。世界の錚々たるコレクターたちの顔ぶれが並んでいますが、日本からはDJ MUROさんや沖野修也さんらが掲載されています。 

良かったらこの辺もチェックしてみてくださいね! ぜひ! 

 

ブレッド・ミラノ『ビニール・ジャンキーズ』

出版社:河出書房新社 
発売年:2004 

まさにレコード界をレプリゼントする名著。レコ屋映画の金字塔『High Fidelity』の主人公ロブ(ジョン・キューザック)のさらに成れの果てを描いたかのような、ワールド・クラスのレコード・ジャンキーたちが次々と登壇する規格外のレコード・ライフ・ドキュメンタリー。 

レコードにまだ薄ぼんやりとしか興味ないアナタも、レコのことが気になって気になって夜も眠れない重篤なアナタも、ワクワクドキドキが止まらない最高の一冊です。 

なお、文中で悶絶爆音盤として描かれた「スキタイ組曲」ですが、マジでレコード史トップ・クラスに危険極まりない音がするので、実際に試してみるのをオススメします。詳細は本書をお読みくださいね! 

 

■ せみま〜る『コレクター・フリークアウト―レコード収集家愚かもの語り』

出版社:白夜書房 
発売年:1998 

遠慮なんて1ミリもなし。描きたいことを思う存分描きまくった、清いまでに下品な快作(or 怪作)。クラシックなレコード・ジャンキーの末路を体現し、著者自身が「この本はカッコ悪い」と断言するほどに、そのありのままを描ききった悲哀の物語でしょう……って、これは別にディスったりしてるワケじゃなくて、私は本書こそがコレクターの残酷なまでのリアルを捉えた一冊だと思っているんです。 

レコード漫画でのオーバーグラウンドの名著が『レコスケくん』(本 秀康著 / ミュージックマガジン / 2007年)だとすると、本書こそがアンダーグラウンドの名著。 
ただ、あまりにも内容がドギツいんで、露骨なまでの嫌悪感を示すか、心当たりありまくって抱腹絶倒するか、それはアナタ次第なのです……。 

あ、ちなみに私もここmysoundマガジンにて、レコード漫画『レコード・ジャンキー富和』を絶賛連載中です! 

 

■ 湯浅 学『アナログ・ミステリー・ツアー 世界のビートルズ1962-1966』

出版社:‎青林工藝舎 
発売年:2012 

「インド盤であればシタールの音が良いはず」というレコード・ジャンキー脳100点の気付きから始まった(?)、レコードを巡る奇妙で愉快な終わりなき旅。 

本書にはThe Beatles各国盤の執拗なまでの聴き比べを経て体感した、サウンドへの考察が丹念に綴られています。 
また、試聴の際に使用したシステム(カートリッジ大量)も写真付で丁寧に解説されており、その発言への信頼度を強固なものとしています。 

やるなら徹底的にやる、レコード・ジャンキーのこうした善行(蛮行?)が、後世のジャンキー予備軍たちを育んでいくのです……。 

なお、本書には続編『アナログ・ミステリー・ツアー世界のビートルズ1967-1970』(‎Pヴァイン / 2013年)もリリースされていますので、そちらも要チェックです! 

 

■ 真保 安一郎『初盤道 究極のアナログレコード攻略ガイド』

出版社:‎DUBOOKS 
発売年:2023 

私は世界中にいる数多のコレクターやディーラーたちと実際に会ってきましたが、その体感からも日本のレコード・ジャンキーたちが1番ヤバイと確信しています。単純な保有枚数比べであれば負けるんですが、その研究の角度や深度は他国の追随を許しません。 

そして、今年この日本でリリースされた本書こそが、最先端のレコード研究が惜しげもなく披露された、世界も慄く圧巻の1冊です。 
たった1枚の作品を何十枚と集め、デッドワックスに刻み込まれた古文書のような暗号を読み解き、ジャケットやラベルに記された文字やデザインの微細な違いを嗅ぎ取る……。著者はそうして集まった膨大なデータから、仮説と検証を繰り返し「初盤とはなにか」という道なき道を登ったのです……。リスペクト! 

 

■ 山中 明『アナログレコードにまつわるエトセトラ』

出版社:‎辰巳出版 
発売年:2023 

そして最後にご紹介するのが、こちらも今年リリースされたレコード愛好本です……とか言ってますけど、超が付くほどのザ・手前味噌、元々mysoundマガジンで連載していた私のコラムをまとめた本です。 

でも、たしかに自分の本ではあるんですが、これの類似書ってあるようでないんです。レコードのディープな楽しみ方の提案や、マトリクスみたいな偏執狂的なコダワリ要素の解説、果ては肋骨レコードみたいな特殊レコードの紹介と、幅広くて深い話を掲載していて、まさに内容としてはレコード・ジャンキー入門といった塩梅の本なんですよ。まぁ、我ながらちょうど良いのができたと自負しております。 

ということで、今回は最後に自分の本で締めくくる、そんなゴリゴリの宣伝記事でした! ではまた次回! 

 

 

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Text:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千