【まつりの作り方】最終回 ~祭り・盆踊りを始めるために~


2011年の東日本大震災以降、地域活性化や住民同士の交流を目的とする新しい祭り・盆踊りが各地で立ち上がり、一種のブームともいえる盛り上がりを見せてきました。本連載ではそうした祭り・盆踊りを紹介してきましたが、新型コロナウイルスの感染が拡大した2020年、盆踊りをめぐる状況は激変しました。最終回となる今回は、そうした現状を踏まえながらタイトルに掲げた「まつりの作り方」について改めて考えてみたいと思います。

祭り・盆踊りとイベントの違いとは?

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▲2019年に行われた「中野駅前大盆踊り大会」(東京都中野区)の模様

 

東日本大震災以降、なぜ新たな祭り・盆踊りが各地で立ち上がったのでしょうか?
戦後になって各地で始まった町内会や自治会主催の祭り・盆踊りの多くは、地域住民のためのレクリエーションと住民同士の交流を第一の目的としてきました。アラレちゃん音頭やドラえもん音頭がかかる素朴な盆踊り大会は、あくまでも地域コミュニティーのためのものだったわけです。

震災以降に始まった盆踊りの多くは、多様なビジョンを持っていました。たとえば2013年にスタートしたプロジェクトFUKUSHIMA!の「納涼盆踊り」(福島県福島市)。こちらの盆踊りは、被災地である福島の地から新たな文化を生み出すことを目的のひとつとすると共に、祭り・盆踊りを通じて福島の内と外を結びつけるというビジョンも持っていました。この「納涼盆踊り」に象徴されるように、震災以降、多様な人々を繋ぎ合わせる祭り・盆踊りの力が見つめ直されてきたのです。

その一方で、一種の「スパイス」として祭り・盆踊り要素が加えたイベントも各地で始まりました、言うなれば、地域との繋がりが希薄な「盆踊り風イベント」が急増したのです。そうしたイベントはあくまでも一時期のトレンドのようなものではありましたが、幅広い世代にアピールすることのできる祭り・盆踊りならではの力を利用したものといえるでしょう。

この連載で取り上げてきた新しい祭り・盆踊りの多くは継続して開催することを想定しています。その点ひとつとっても、ひと夏かぎりの盆踊り風イベントとは異なるわけですが、継続開催するためには地域コミュニティーとの関係を深める必要があります。祭り・盆踊りを立ち上げるうえでそれこそが最大の課題ともいえるでしょう。

東京都中野区の「大和町八幡神社大盆踊り会」(通称「DAIBON」)は近年のムーブメントの先頭を走る盆踊りといえます。元となったのは八幡神社で長年続けられてきた昔ながらの盆踊りですが、2016年よりDJやダンサーたちのパフォーマンス、さまざまなアーティストによるライヴも行われる形態となり、各メディアで話題を集めてきました。ただし、早い時間は神輿の練り歩きがあったり、神社と併設された幼稚園の園児たちによる空手の披露があったりと、地域の出し物とうまく組み合わせているのがDAIBONの特徴です。主催者や関係者が地元住民と熱心にコミュニケーションをとり、あくまでも従来の盆踊りの延長上で新しい祝祭の形を提示している点も重要です。

また、ベトナムやカンボジアからやってきた移民たちが住む多国籍団地、いちょう団地(神奈川県横浜市泉区~大和市)を舞台とする「いちょう団地祭り」には、移民の子供たちの進学援助および日本語教育を行う「多文化まちづくり工房」が運営に参加しています。日々のまちづくりの延長上で「いちょう団地祭り」は行われているわけです。愛知県豊田市の「橋の下世界音楽祭」でも会場横を流れる矢作川の清掃活動を日頃から行っており、開催日以外も地域と関わり続けています。

 

まつりの作り方(3)

▲「方城山神盆踊り大会」(福岡県田川郡)で披露される盆口説き

 

祭り・盆踊りを立ち上げるということは、ひとつの空間上に地域の歴史を編集し、レイアウトしていく作業でもあります。震災以降、各地に住むミュージシャンによってご当地音頭が作られるようになっていますが、その土地の名産品や観光名所を織り込んだ音頭を創作するという作業もまた、「風土の編集」といえるでしょう。来場者はその音頭に合わせて踊ることで地域の歴史を知り、風土と出会うことになります。

大正3年(1914年)に起きた日本最大の炭鉱事故の歴史を地元の青年が知ったことから始まった福岡県田川郡の「方城山神盆踊り大会」は、主催者自身が盆踊りを通して地域の歴史を発見した稀なケースといえます。この盆踊りの場合、炭鉱事故の犠牲者を供養するための盆踊りをテーマとしつつ、同地特有の盆踊り文化や朝鮮半島の伝統芸能を取り入れながら田川の多様性を表現しています。そこに「方城山神盆踊り大会」のおもしろさがあります。

 

祭りを始めるうえでの課題とは?

まつりの作り方(3)

▲葉山・森戸海岸で行われる「森戸の浜の盆踊り大会」(神奈川県三浦郡)

 

祭りや盆踊りを始めるべく動き出してみて初めてさまざまな課題や問題に直面したというのは、どの主催者にも共通しているようです。取材時に話に上がった問題点をざっと書き出してみましょう。

●会場探し
都市部の場合、最初に立ちはだかるのが会場の問題です。都会の公共空間において、音を鳴らすことができて、なおかつ一定の人数が踊れる場所を探すことは困難を極めます。その点でいえば、郊外~地方のほうが比較的ハードルは低いといえるでしょう。農閑期の田んぼを会場とする栃木県栃木市の「ど田舎にしかた祭り」のように、意外なところに会場を見出すことができるかもしれません。

●地域住民との関係性
たとえ会場が見つかったとしても、続いて騒音問題が立ちはだかります。通常の盆踊りであっても地域住民から苦情が入ったり、警察へ通報されたりするケースは珍しくありませんが、大音量のライヴやDJを入れることにとってそのリスクはさらに高まります。スピーカーの向きなど音響面に気を配るだけでなく、事前に周辺住民とのコミュニケーションをとるなど、ここでも地域住民との関係構築が重要なポイントとなります。

●運営スタッフの確保
祭り当日だけでなく、会場の整備・警備や周辺住民への挨拶回りなど事前の作業は膨大なものになります。そのため、雑務をこなしてくれるスタッフなくして祭りの開催は不可能です。盆踊りの太鼓を叩いたり、重機を動かすことができたりという特殊技術を持つ協力者だけでなく、趣旨に賛同してくれる仲間を増やすことが必要です。

●金銭面の課題
祭り・盆踊りはやはりお金がかかります。櫓や舞台の設営、電気・音響関係などを業者に頼めばその金額は膨れ上がり、継続も難しくなりますが、自分たちで組んでしまえば当然安く上がります。設営から撤収まで自分たちでやることにより、一定の自治を実現することができますが、そのぶん問題が起きたときには自分たちで解決する必要も出てきます。なお、多くの祭り・盆踊りの場合、運営資金は協賛金や飲食ブースの売り上げ、グッズ販売のほか、「橋の下世界音楽祭」のように来場者の投げ銭で一部をまかなっているところもあるようです。

 

祭り・盆踊りが作り出す新しい社会のかたち

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▲「方城山神盆踊り大会」(福岡県田川郡)のワンシーン

 

そのように祭り・盆踊りを始めるうえでのハードルは決して低くはありませんが、一方で、祭り・盆踊りにはたくさんの可能性があります。その可能性は地域に多くの人を呼べるという町おこし的一面に留まりません。世代や趣味嗜好もさまざまな人々を集めることができるという点は、コミュニティーが分断されている都市部では重要な意味を持つことでしょう。もちろんたった一日の盆踊りによって分断が越えられるわけではありませんが、この連載で取り上げてきたように、盆踊りや祭りが盛り上がることによってコミュニティーが再編されるケースは全国各地で見られます。踊りの輪のなかでさまざまな人々が接点を持つことは、決して無駄なことではないのです。

祭りや盆踊りとは、踊り手みんなで同じ方向を向き、共に踊ることによって「絆」を確認するだけの場所ではありません。むしろ踊り方や立ち振る舞い方など一定のルールを共有したうえで、それぞれがそのままの姿で存在できる稀な機会といえるでしょう。来場者はそこで自分とは異なる他者と出会い、その存在を知ることになります。そうした「他者と出会う場所としての祭り・盆踊り」という一面は、アフター・コロナの時代にこそ重要な意味を持つはずです。

ここ数年、各地の盆踊り文化を東京へと紹介する動きが活発になっています。ダムの底に村が沈んだことによって衰退し、消滅の危機にあった旧徳山村(現・岐阜県揖斐川町)の「徳山踊り」は近年東京へと紹介された盆踊りのひとつ。2019年2月には関東の盆踊り愛好家が中心となって「徳山おどり」を再現するイベントも開催されました。地方の盆踊り文化を東京へと「輸入」する例は決して珍しいものではありませんが、「徳山おどり」の場合、都内の盆踊り愛好家が足繁く現地を訪れ、交流を重ねてきたところに意味があります。その結果、2019年夏には徳山で十数年ぶりに盆踊り大会が復活。旧徳山村の人々も集まり、大きな盛り上がりを見せたといいます。

このケースの場合、「都市から地方へ/地方から都市へ」という交流の流れそのものを作ったところに意義があります。盆踊り文化を再生すると同時に、祭り・盆踊りを通じて都市/地方の関係性を再構築すること。「徳山おどり」に見られるそうした試みは各地で増えていくことでしょう。

いまだコロナ禍の終わりは見えず、2020年は多くの祭り・盆踊りが中止となりました。そのなかでもなお、関係者の多くは来年以降の復活をめざして対策を練っています。今後アフター・コロナの時代に対応した祭り・盆踊りのあり方が考えられていくのではないでしょうか。

 


 

【Information】

◆本連載の著者・大石始による新刊が発売!

まつりの作り方(5)

 

アラレちゃん音頭やダンシング・ヒーロー、バハマ・ママがかかる「非伝統的」な盆踊りは、戦後の新しいコミュニティーにおいてどのように機能してきたのか? 

「まつりの作り方」でも紹介された各地の盆踊りを通して、戦後日本の変遷を描き出します。著者の『ニッポン大音頭時代』(2015年)と対になる意欲作。
 

◆『盆踊りの戦後史 「ふるさと」の喪失と創造』
2020年12月17日発売
定価:本体1,600円+税
ページ数:256
ISBN:978-4-480-01719-2
JANコード:9784480017192

https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480017192/


●第一章 日本の近代化と盆踊り――明治〜昭和初期
近代化以前/性のエネルギーを発散する場/盆踊りの禁止/レコード・ラジオの発展/「東京音頭」の大ヒット/振り付けと新舞踊運動/踊りコンテスト/プロバガンダとしての音頭・盆踊り ほか

●第二章 戦復興と盆踊りの再生――昭和二〇〜三〇年代
戦没者供養という原点/再編される地縁団体/民謡ブームにのって/国内観光ブームの影響/レクリエーション・ダンスとして/北海道の独自な盆踊り文化 ほか

●第三章 高度経済成長期の新たな盆踊り空間――昭和三〇〜四〇年代
故郷喪失者たちが夢見た「ふるさと」/日本共産党後援会が立ち上げた盆踊り/釜ヶ崎夏祭り/地域で親しまれている工場盆踊り/「新しい街」としての団地/千葉県柏市光が丘団地/岐阜県瑞穂市本田団地/福岡県北九州市土取団地/東京都東久留米市滝山団地 ほか

●第四章 団塊ジュニア世代と盆踊り――昭和五〇年代
「ディスカバー・ジャパン」の時代/多摩ニュータウンの盆踊り/千里ニュータウン/千葉ニュータウン/団塊ジュニアはアニソン音頭で踊る/新スタンダードは地域で突然現れる/バハマ・ママ音頭とレクリエーション・ダンス ほか

●第五章 バブル最盛期の盆踊りと衰退――昭和六〇年代〜平成初期
コミュニティーの破壊と再生/西神田ファミリー夏祭り・盆踊り/「ダンシング・ヒーロー」がなぜ盆踊りになったのか/ダンス・パフォーマンスとしての祭り――YOSAKOIソーラン祭り以降/バブル崩壊と阪神・淡路大震災 ほか

●第六章 東日本大震災以降の盆踊り文化――平成後期〜現在
東日本大震災以降の盆踊り人気/プロジェクトFUKUSHIMA!と「ふるさと」の創造/「DAIBON」――従来の演目のアップデート/にゅ〜盆踊り――ダンスカンパニーとの協働/高島おどりと徳山おどり/YouTube以降のカルチャーとしての盆踊り/被災地と盆踊り/復興公営住宅の盆踊り大会/盆踊りと移民/埼玉県川口市芝園団地/神奈川県横浜市・大和市いちょう団地 ほか

●終章 アフター・コロナ時代の盆踊り――二〇二〇年夏に考える
盆踊りのない夏/オンライン盆踊りの試み/さまざまな縁を結び直す場としての意義/死者と生者の交わる場所 ほか

 


 

Text:大石始
Photo:大石慶子