【秘密レコード〜 レコ屋がこっそり教える、ヒミツのレコメンド】最終回「別れは突然に 〜 幕引きに相応しいGoodbyeソング5選」


ディスクユニオン新宿ロックレコードストア店長の山中明氏​​による連載コラム! レコード・バイヤーとして、そして1レコード愛好家として有名無名を問わず数知れない盤に触れてきた著者が、独自の視点でセレクトした推薦盤をその時々のテーマに沿って紹介していく連載です。

最終回は、「別れは突然に 〜 幕引きに相応しいGoodbyeソング5選」。どんなものにも必ず訪れる、終わりのとき……別れ。恋愛の終わりや近親者との死別、各種学校からの卒業など、さまざまな“別れ”がこの世には存在し、それを歌った楽曲も星の数ほど存在します。

聴く者の心を激しく打つ、あまたの名曲を生み出してきた“別れ”とは音楽における1つの普遍的テーマと言えるかもしれません。ある種、王道と呼んでもいいであろう“Goodbyeソング”について、今回も秘密レコードならではのセレクトでご紹介! 2022年8月からスタートした本連載の最終回を飾るにふさわしい名曲の数々をお届けします。

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いらっしゃいませ! Himitsu Recordsへようこそ!

惜別、離別、死別……。別れって一口に言ってもいろいろな形があるものですが、どんな時にもそっと寄り添ってくれるのが音楽です。

自分自身を納得させるためだったり、大切な友を送り出すためだったりと、音楽はさまざまな役割を果たしてくれるワケですが、そのシチュエーションにピッタリな音楽を耳にすると、その大切な時間は音楽と共にいつまでも記憶されるのです……って、中年になった私はすでにおぼろげなんですけど。

ということで、今回は「別れの歌」をテーマにして5枚のレコードをご紹介いたします。ただ、タイトルからして「Goodbyeソング」なんていって逃げているように、曲中でただ「Goodbye」といえばアリという、ザルなルールでの選出となっています。

じゃあ、そういう感じならThe Beatles「Hello Goodbye」とか、メリー・ホプキン「Goodbye」とかが入ってないじゃんって思う方もいるかもしれませんが、そこは私っぽくドが付く王道は外させてもらっています。

まぁとにかく、テーマ云々というよりも、シンプルに良い曲を知りたいぞっていう方はご一読くださいね! ぜひ!

 

※レアリティーとは

オリジナル盤の希少度を星印で表現しています。最大は6星。

★☆☆☆☆☆ 定番:買いやすくて好内容

★★☆☆☆☆ 王道:一家に一枚

★★★☆☆☆ 希少:試されるのはレコードへの情熱

★★★★☆☆ 財宝:これであなたもお金持ち!

★★★★★☆ 遺産:金銭よりも入手機会獲得の難度

★★★★★★ 神器:世界が一丸となって守り抜くべき聖杯

 

Endaf Emlyn「Goodbye "Cherry Lill"」

発売国:UK
レーベル:Parlophone
規格番号:R5954
発売年:1972
レアリティー:★★☆☆☆☆(2/6)

1972年に白日のドリーミー・フォーク名品『Hiraeth』を発表以降、自身の言語(ウェールズ語)によって歌い紡ぎシーンを切り開いた、ウェールズを代表するシンガーソングライター、エンダフ・エムリン。

彼は大学卒業後、テレビ・アナウンサーを務めながらも並行してミュージシャンへの道を志し、「英国のバカラック」の異名を取る大作曲家、トニー・ハッチが起こした出版社M&M Musicと契約を結んでいます。

デビューは1971年のこと。最初のシングル「Paper Chains / Madryn」(R5929)を含め、計4枚のシングルをParlophoneに残していますが、本作は1972年にリリースされた2ndシングルとなります。

特にA面収録の「Goodbye "Cherry Lill"」は、英国らしい甘枯れたメロディーと、彼のまどろむような声が哀感を誘う、至高のGoodbyeソングとなっています。こういうメロディーって、日本人の感性にグサッとくると思いますよ!

 

■ R. Stevie Moore「Goodbye Piano」

発売国:France
レーベル:Flamingo
規格番号:49452
発売年:1972
レアリティー:★★☆☆☆☆(2/6)

第7回 「ベッドルームより愛を込めて……宅録レコード名盤撰」でもご紹介した、宅録界最大のビッグネーム「ゴッドファーザー・オブ・ホーム・レコーディング」ことR.スティーヴィー・ムーアの初期名曲。

郷愁漂うオールドタイミーなピアノを奏でながら、頼りなさげなファルセットで歌い上げられた本曲は、まるで夢(悪夢?)の中のひとコマを切り取ったかのような、美しく奇怪なGoodbyeソングの名曲です。

なお、今回はあえてフランス盤シングルでのご紹介となりますが、それはというのも、シングルB面に収録の「I Wish I Could Sing」も試してみてほしいのです。A面とは打って変わって(部屋の中で)腕をブンブン振り回して猛ダッシュするかのようなナンバーで、彼のキャリアを代表する宅録キッチュ・パンク・アンセムとなっているのです……マスト!

 

■ Uno「Goodbye Friend」

収録アルバム:『Uno』
発売国:Italy
レーベル:Fonit
規格番号:LPX26
発売年:1974
レアリティー:★★★☆☆☆(3/6)

続いては由緒正しきイタリアン・プログレからの選曲です。
彼らは同シーンのレジェンド、Osannaの派生グループで、ブリティッシュ味も漂う骨太な攻撃性と、フルートやサックスがたゆたう優美な耽美性とが織り交ぜられた人気者です。

そして、彼らの唯一作となるアルバム『Uno』に収録された「Goodbye Friend」は、たおやかなフォーク・ソングと、ドラマチックなシンフォニック・アレンジメントが美しくも叙情的な世界観を描き出しています。

お別れの時もプログレッシヴにサヨナラしたい、そんなアナタにオススメです。

 

■ Michael Yonkers「Goodby Sunball」

収録アルバム:『Goodby Sunball』
発売国:US
レーベル:Private
規格番号:MY-0002
発売年:1974
レアリティー:★★☆☆☆☆(2/6)

ミネアポリスが産んだ孤高のサイケデリック・アーティスト、マイケル・ヨンカースによるあまりにうらぶれたアシッドGoodbyeフォーク。

聴けば聴くほどに不安は募り、フト気づけばその眼前に広がるのは淡くおぼろな朝靄が如し。そのまま身を任せるようにしていれば、思わず何もかもからお別れしてしまうかのような、モクモクとアブナイ煙がくすぶるイルな一曲です。

ちなみにですが、彼の他作品の中では1968年録音作『Microminiature Love』(De Stijl / IND-029 ※リリースは2002年)がオススメです。
テレキャスターとジャガーを己でブッタ切って組上げた異形のダブル・ネック・ギター、そして「FUZZ'N BARK」と名付けた悪夢の如きディストーション・ボックスを引っ提げて制作されており、彼のアシッド・フォーク期とはまた趣が異なる、純度100%のヘヴィー・フリーク・アウト・ミュージックに満ちています。ドープ!

 

■ Heron「Bye And Bye」

発売国:UK
レーベル:Dawn
規格番号:DNX2509
発売年:1971
レアリティー:★★★☆☆☆(3/6)

最後にご紹介するのは、みんな大好き「木漏れ日フォーク」の代名詞、HeronがEPにのみ残した大名曲です。

「木漏れ日」と「Goodbye」という2つの要素が生んだ至高のマリアージュ。ここまで「Goodbyeソング」なんていうよく分からない名称を使い続けてきましたが、この曲を聴けばその魅力に虜になること間違いなし。ミュージック・ラヴァーであれば、一度は聴いておいてくださいね!

ということで今回はここまで。
そして唐突ではありますが、これにて最終回となります。約2年の間、ご愛読いただきありがとうございました!
またのご来店お待ちしております!

 

 

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Text:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千