【秘密レコード〜 レコ屋がこっそり教える、ヒミツのレコメンド】第11回「BサイドでもAサイド 〜 ロバート・ワイアット裏コラボ名曲5撰」


ディスクユニオン新宿ロックレコードストア店長の山中明氏​​による連載コラム! レコード・バイヤーとして、そして1レコード愛好家として有名無名を問わず数知れない盤に触れてきた著者が、独自の視点でセレクトした推薦盤をその時々のテーマに沿って紹介していく連載です。

第11回は「BサイドでもAサイド 〜 ロバート・ワイアット裏コラボ名曲5撰」。著者自身が最も敬愛するアーティストの1人と公言する、ロバート・ワイアットの“声”にフィーチャーしてセレクトしていきます。ボーカリストとしてのワイアットの魅力を存分に味わえる楽曲の中でも、隠れたコラボ名曲の数々をご紹介!

なお、以下に記載のレアリティーはあくまでもオリジナル盤の希少度になります。多くはCDやアナログ盤で再発されていたり、音楽配信されていたりもしますので、もし気になったものがありましたら、まずはインターネット上でディグするところから始めてみてはいかがでしょうか? そこには、底知れぬ深淵が待ち構えているかもしれませんが…。

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いらっしゃいませ! Himitsu Recordsへようこそ!

突然ですが、音楽好きのみなさんであれば、敬愛してやまないアーティストっていたりしませんか?

私にとっては、ロバート・ワイアットが最も敬愛するアーティストの1人です。Soft Machineのドラマーとして本格的にキャリアをスタートさせ、1973年に起きた不慮の事故により半身不随となって以降は、唯一無二のソロ・アーティストとして活躍した、誰がなんと言おうと紛うことなきリビング・レジェンドです。
ドラマーとしても卓越していましたが、彼の個性の核はなんといってもその声にあると思います。惜しくも去る2023年3月に逝去された故・坂本龍一氏をして、「世界一悲しい声」と評されたその唯一無二の声質は、いかなるメロディ・ラインを歌おうともその曲に「ワイアット印」を深く刻み込むのです。

そんなこともあって、彼は数多くのアーティストにゲスト・ヴォーカリストとして招かれていますが、その活動の範囲は多岐に渡ります。
同郷のカンタベリー・シーンの仲間たちの作品はもちろんのこと、ジョン・ケージをはじめとしたアヴァンギャルド界隈から、ビョークやHot Chipといった現代のアーティストまで、幅広くコラボレーションを行い、多くの名曲を残しています。

そして、2014年にはそんな彼のコラボ曲やソロ曲をコンパイルした2LPベスト・アルバム『Different Every Time』がリリースされています。『〜 Volume.2』もリリースされたので、計LP4枚分に渡ってまさにベスト・オブ・ベストな名曲たちが並んでいるのですが、とはいえ彼が残した膨大な名曲群がたった4枚のLPに収まるはずもなく、末永く聴き継がれるべき名曲たちがまだ息を潜めているのです……。ということで、今回はそんなベスト・アルバム『Different Every Time』にも収録されなかった曲の中でも、コラボ曲にスポットを当ててご紹介します。

彼はベスト盤がリリースされた同2014年、そのアーティスト活動に終止符を打ち、現在はイギリスの田舎町で密やかな生活を送っていますが、彼の名曲たちが色褪せることは決してありません。この話がみなさんにとって、ほんの少しでもそんな名曲たちに触れるきっかけとなれば幸いです。
いや〜にしても一度は来日してほしかったですね……ってまぁ、とにかくご一読ください!

 

※レアリティーとは

オリジナル盤の希少度を星印で表現しています。最大は6星。

★☆☆☆☆☆ 定番:買いやすくて好内容

★★☆☆☆☆ 王道:一家に一枚

★★★☆☆☆ 希少:試されるのはレコードへの情熱

★★★★☆☆ 財宝:これであなたもお金持ち!

★★★★★☆ 遺産:金銭よりも入手機会獲得の難度

★★★★★★ 神器:世界が一丸となって守り抜くべき聖杯

 

Hatfield And The North「Calyx」

収録作品:『Hatfield And The North』
発売国:UK
レーベル:Virgin
規格番号:V2008
発売年:1974
レアリティー:(2/6)

彼の初期のキャリアの中でも、屈指の名コラボとしてファンから底抜けに愛される1曲。ワイアットはスキャットだけでその美声を聴かせてくれますが、その悲哀と慈愛に満ちたサウンドスケープは絶品中の絶品です。

また、彼はライヴ・アルバム『Theatre Royal Drury Lane 8th September 1974』(1974年音源 / 2005年初LP化)でも本曲を披露していますが、そちらは歌詞入りバージョンとなっています。このアルバムは他曲も含めてプログレ界を代表する名ライヴ盤となっていますので、全人類必携必聴っていうヤツですよ! ぜひ!

 

■ Lindsay Cooper, Chris Cutler, Bill Gilonis, Tim Hodgkinson & Robert Wyatt「In The Dark Year」

収録作品:V.A.『The Last Nightingale』
発売国:UK
レーベル:Rē Records
規格番号:Rē 1984
発売年:1984
レアリティー:(2/6)

続いてご紹介するのは、度々映画の題材にもなっている、イギリスで1984年に起こった通称「炭鉱ストライキ」のためのドネーションEPです。
本作の首謀者は、強固な音楽観とイデオロギーによって組織された思想集団、Henry Cowのメンバーたち。そして、そんな彼らにとってのアイコンでありアイドルであったワイアットが招かれ、新たに曲を書き下ろし制作されています。

このコラボで制作された曲は2曲。ワイアットが力強く高らかに歌い上げるA1「Moments Of Delight」も素晴らしいですが、個人的にはA2「In The Dark Year」をプッシュ。Henry Cowらしく扇動的なバスーンやアルト等の管楽器、暴力的ですらあるドラムとギター・ノイズ、そしてそこにワイアットの悲痛なまでの歌声が織り込まれ、聴く者の耳と心を刺す絶品アジテーション・ソングとなっています。名曲!

 

■ 坂本龍一「We Love You」

収録作品:『ビューティー』
発売国:Japan
レーベル:Virgin Japan
規格番号:VJL-28203
発売年:1989
レアリティー:(3/6)

現在ではある種のパワー・ワード的に使われる「世界一悲しい声」という異名を付けた本人も、やはり自身の作品にワイアットをゲストとして招いています。しかも、その曲がRolling Stonesのカバー曲という取り合わせも、また絶妙です。

なお、本曲が収録されたアルバム『ビューティー』は1989年というCD時代にリリースされたため、レコードのプレス枚数はかなり少なめ。ここ国内でも高値で取引されていますが、海外では結構エグめなプライスに……。

 

■ Robert Wyatt & Bertrand Burgalat「This Summer Night」

収録作品:『This Summer Night』
発売国:UK
レーベル:Domino
規格番号:RUG283T
発売年:2008
レアリティー:(2/6)

(私も含めて)オールド・ロック・ファンには馴染みが薄いかもしれませんが、Air、April March、Cinnamon、そしてカヒミ・カリィと、90sファンにはドンズバのアーティストたちをプロデュースしてきた、フランスのミュージシャン兼プロデューサー、ベルトラン・ブルガラとの共演曲です。

ワイアットのアーティストとして特筆すべき点のひとつとして挙げられるのは、時代を取り込むことを恐れず、その時代の音楽とクロスオーバーし続けてきたことでしょう。
本曲もバッキングは極太ベースにグルーヴィーなビート、さらにシンフォニーによるキャッチーなテーマにはコズミックな味付けも施され、バチバチにフロア対応な仕上がりです。そして、そこにワイアットの悲哀に満ちた歌声が轟けば……もうブチ上がり間違いなし。
2000年代以降の、アーティストとして晩年を迎えた彼の作品の中でも、ベストとして挙げたいフロア・アンセムだと思います。

なお、コラボは1曲ということで、リリース当時はシングルとして発表されましたが、7”と12”の2種類がリリースされています。さらに、サイズが違うだけでも迷うっていうのに、カップリングとして収録された同曲のリミックス・バージョンも違ったのです……ってまぁ、私は迷うことなくどっちも買いましたけど。
あ、あとPVも最高なんで、お好きな方はチェックしてみてください!

 

■ John Greaves「The Song」

収録作品:『Songs』
発売国:Japan
レーベル:Toy's Factory
規格番号:TFCK-88203
発売年:1995
レアリティー:(1/6)

最後にご紹介するのは、先ほどもご紹介したグループ、Henry Cowのベーシストとしての活動を皮切りに、カンタベリーの名グループであるNational Healthへの参加ほか、数多くの作品を残した名アーティスト、ジョン・グリーヴスとのコラボ曲です。

ジョン・グリーヴスのペンによるこの美しくも物憂げなバラードは、バッキングもシンプルな組み立てとなっていますが、それが故に、ワイアットが持つ悲哀の声がより強く浮き彫りになっています。
ただ、深く陰が掘り込まれたかのような悲しみの中、その声は美しさ、そして優しさが溢れる慈愛に満ちた顔をものぞかせるのです。彼の声がお好きな方であれば、心震わされること間違いなしでしょう。

なお、本作は残念ながら(?)CDのみでのリリースとなっています。いやー、どなたかアナログでリリースしてくれませんかね……。めちゃくちゃ頑張って売りますんで、どうにか実現お願いします!

ってことで、今回はここまで。またのご来店お待ちしております!

 

 

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Text:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千