【秘密レコード〜 レコ屋がこっそり教える、ヒミツのレコメンド】第12回「蠱惑のアウトサイダー・ミュージック ~ AIには生み出せない、劣悪で最高なレコード撰」


ディスクユニオン新宿ロックレコードストア店長の山中明氏​​による連載コラム! レコード・バイヤーとして、そして1レコード愛好家として有名無名を問わず数知れない盤に触れてきた著者が、独自の視点でセレクトした推薦盤をその時々のテーマに沿って紹介していく連載です。

第12回は「蠱惑のアウトサイダー・ミュージック ~ AIには生み出せない、劣悪で最高なレコード撰」。いわゆるポピュラー・ミュージックの対極のような存在でありながら、その感性に共鳴するところのある人に対しては惹きつけてやまない……。まさに代表格として挙げられるThe Shaggsを筆頭に、さらなる奥地へと踏み入る(音楽的)勇気ある読者に向けてアウトサイダー極まりない名盤を厳選してご紹介します。

なお、以下に記載のレアリティーはあくまでもオリジナル盤の希少度になります。多くはCDやアナログ盤で再発されていたり、音楽配信されていたりもしますので、もし気になったものがありましたら、まずはインターネット上でディグするところから始めてみてはいかがでしょうか? そこには、底知れぬ深淵が待ち構えているかもしれませんが…。

秘密レコード_01


いらっしゃいませ! Himitsu Recordsへようこそ!

ChatGPTの登場によりAIの存在が身近になってくるとともに、その恐るべき実力に驚かされっぱなしの今日この頃。そんな中、私たちミュージック・ラヴァーが気になっちゃうのは、「AI音楽」の実力ではないでしょうか。

瞬時に生まれる曲たちは正確無比なリズムを刻み、奏でられるのは完璧に調和の取れたハーモニー。それっぽいメッセージの込められた歌詞を書き、誰々風の声質でメロディーを歌い上げる……。
現時点でさえこれぐらいは楽勝のようですので、あと数年もすれば磨き上げられた良質な、いやもしかしたら「完璧」なポップ・ソングを次々と量産してしまうのかもしれません……。

ここでふと思ったのですが、果たして「完璧」な音楽って必ずしも魅力的なのでしょうか?
もちろん、音楽というのはスピーカーの前に膝を突き合わせてじっくり聴くことだけではなく、ありとあらゆるシーンで「使われる」こともあるもの。現時点でのAI音楽でも、そういったシーンを瞬時に、そして完璧に彩ってくれるのかもしれません。著作権も発生しないですしね。

では、じっくり対峙して聴く音楽はどうなのでしょうか?
かつてのブライアン・ウィルソンがそうだったように、かつて限りなく「完璧」に近い音楽を生んできた人間もいました。しかし、天才アーティストといえどもそこは人間。そんなブライアンも苦悩し、道も音も踏み外した時期もあったものです。でも、そうした人間臭さにこそ、人は惹きつけられるのかもしれません。

ここでもう一歩踏み込んでみましょう。では、完璧とはほど遠い、あまりに稚拙な演奏技術で作られた音楽はどうなのでしょうか? 技術の乏しい音楽は、必ずしも悪い音楽なのでしょうか?

あくまで音楽は、人間が聴くもの。人は決して完璧ではありません。そして、そんな人の心を動かすのに、技術は絶対要件ではないと思います。テクニカルで均整の取れたものにも相応の魅力がありますが、技術に劣るものであっても、決してロジカルに割り切れない魅力に溢れた音楽もあるものです。

ということで、今回は決してAIには生み出せない、あまりに演奏は劣悪だけど、人の心を動かしてやまない最高の音楽たちをご紹介します。人が生んだ音楽だけに宿る、その人間臭さ、そして人間の狂気(?)をご堪能ください……。ぜひ!

 

※レアリティーとは

オリジナル盤の希少度を星印で表現しています。最大は6星。

★☆☆☆☆☆ 定番:買いやすくて好内容

★★☆☆☆☆ 王道:一家に一枚

★★★☆☆☆ 希少:試されるのはレコードへの情熱

★★★★☆☆ 財宝:これであなたもお金持ち!

★★★★★☆ 遺産:金銭よりも入手機会獲得の難度

★★★★★★ 神器:世界が一丸となって守り抜くべき聖杯

 

The Shaggs『Philosophy Of The World』

発売国:UK
レーベル:Third World Recordings
規格番号:TCLP3001
発売年:1969
レアリティー:(6/6)

これぞ下手界の世界代表。その演奏技術のなさといったら、この上なし。しかし、その突き抜けた下手さと、3姉妹というパッケージ、そして何よりもこんなにも劣悪な演奏がレコードとしてリリースされたというある種の奇跡が、世にも奇妙な物語を生んだのです。

巨星フランク・ザッパをはじめとしたアーティストからの賞賛を集め、評論家筋は戸惑いとともに語り明かし、今となっては大衆の心をも動かし、カルト・スターとなった彼女たちは映画化すら果たして、下手界のアイコンとなったのです。

そんなこともあって、彼女たちはすでにかなりの知名度を持っていますので、ここで改めてこと細かに説明したりはしませんが、未聴の方はぜひ一度聴いてみてください。フィジカル・リリースされた音楽において、最も劣悪な技術で奏でられたであろう、あまりに歪で、かろうじて音楽の体をなしている音楽。でも、妙に人懐っこくて、無自覚に心動かされるバイブスに満ちた本作は、決して計算では生み出せないアウトサイダー・ポップの集大成とも言えましょう。

ちなみに、オリジナル盤は死ぬほど高い(2023年現在、50万~100万円!)んで、再発で楽しみましょうね!

 

■ Kenneth Higney『Attic Demonstration』

発売国:US
レーベル:Kebrutney Records
規格番号:KBH516
発売年:1976
レアリティー:(3/6)

塩化ビニールが録音媒体として生まれ変わって70年余。その長い歴史の中で銀河の星の数ほど作られてきたレコードたちは、実に多種多様な溝が刻み込まれてきました。そんな中には、異常偏愛をつづった私小説を惜しげもなく披露するかのような、華麗なるショービズの世界とは程遠いイレギュラーな作品が確かに存在していたのです。

まさに本作こそがそんなアウトサイダー・ミュージックの本命盤にして、活けるナチュラル・ボーン・サイケデリアによる渾身の奇作。一向にリズム・キープができずにヨタ歩きするドラム、脈絡もなく噴き出すファズ、悪酔いするエフェクト、中空をぼやっと見つめたまま視線と音程が定まらないストーンド・ヴォーカル……。

​​​​​​​本作を耳にした方であれば信じ難いことですが、彼は本気で作曲家を志し、そのお披露目作として本作は制作されたのです。しかし、その余りある熱意と、全く追いつかない技量とのギャップこそが、私たち人間の心を揺さぶってやまないのです。

 

■ Lewis Baloue『Romantic Times』

発売国:US
レーベル:R.A.W. Records​​​​​​​
規格番号:RAW1002​​​​​​​
発売年:1985
レアリティー:(5/6)

2023年現在、自身の制作した音源を世に出すことは実に容易ですが、レコード時代には、そのハードルは決して低いものではありませんでした。そんな時代に類まれなる演奏の技術や、天性の(真っ直ぐな)音楽的才能なしに音源を世に出すには、全てを投げ打って音楽に身を投じるか、あるいは金銭でイージーに一発解決するか、その程度の選択肢しかなかったのかもしれません。

本作は株で大きな成功を収めたとある男が、白いスーツを身にまとい、ベンツ、プール付きの豪邸、ブロンドの美女と、絵に描いたような贅のかぎりを尽くし後、ちょっとした余暇で作った自主制作盤です。ベンツとプライベート・ジェットをバックに従えて、白いスーツでビシビシに決めて佇むジャケットの印象そのままに、声質は最高にクールでダンディー。ただ、金銭やルックス等、多くのものを携えた彼に足りなかったものは「音感」です。そう、シンプルに音痴なんです。
しかも、それを誤魔化すかのようにしつこいほどこぶしを利かせ、過剰にエコーで塗り固めたヴォーカルは、聴き手にえも言われぬ恐怖を感じさせ、なんなら退廃とした終末感すら漂います。

​​​​​​​しかし、シンセサイザーを軸に組み立てられたバッキングはことのほか美しく、まるでそれはリゾートのビーチで立ち上がる太陽を眼前に、まどろみの時を過ごすサンライズ・サウンド。そして、そこに彼の不安定極まりない声が溶け込めば……あら不思議。ある意味、音楽的には全く正しくない組み合わせが生んだ、この劣悪で美しい、極めてユニークな曲たちは、私たちをどこまでもロマンティックに浸すのです……。

 

■ Tangela Tricoli『Jet Lady』

発売国:US
レーベル:Private​​​​​​​
規格番号:#2001​​​​​​​
発売年:1982
レアリティー:(3/6)

最後にご紹介するのは、ジャンボ・ジェット機の代名詞、ボーイング747を操る初の女性パイロットとなり、アインシュタインの相対性理論の改良にすら挑む、規格外の才能を持った才人が産み落とした異形の音楽です。

とにもかくにもA3の表題曲「Jet Lady」を聴いてみてください。第一声からして不安定極まりなく、この先の数分が思いやられますが、その進んだ先こそが狂気の坩堝。繰り返されるどうしようもない弾き語りが続く中、極度のワウフラッター(のようなもの)が発生し、徐々にぐわんぐわんとサウンドがカオティックに変容していくのです。

これは狙ってるんだか天然なのかは分かりませんが、他の曲もしっかりド下手。いや、天才が過ぎて、凡人の理解が及ばない境地に達したのか……。そんな半信半疑の中、本作はアウトサイダー・ミュージック屈指の名作として語り継がれてきたのです……。

​​​​​​​ということで今回はここまで。またのご来店お待ちしております!

 

 

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Text:山中明(ディスクユニオン)
Edit:大浦実千

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