第三十二回 吹奏楽コンクールと各地の銘酒・名居酒屋2【名曲と美味しいお酒のマリアージュ】

 

音楽を気軽に楽しんでいただくため、毎回オススメの曲とそれに合わせたお酒をご紹介する連載【名曲と美味しいお酒のマリアージュ】。第三十二回でご紹介するお酒はルミエールのワイン「イストワール」です。

前回に続き、吹奏楽コンクールの話題です。今回は10月7、8日にYCC県民文化ホール(山梨県立県民文化ホール)で行われた『第23回東日本学校吹奏楽大会』を聴きに甲府を訪れた際に出会った名演と銘酒・名酒場をご紹介しようと思います。

東日本学校吹奏楽大会というのは、北海道・東北・東関東・西関東・東京都・北陸吹奏楽連盟の小編成バンドのための最上位大会で、小学生・中学校・高等学校の3部門から成っており、各支部から選ばれた合計60団体が出場しました。少子化の影響などで小編成バンドの数は全国的に増えており、この大会の意義もますます大きくなってきていると言えるでしょう。

甲府を訪れるのは実に5年ぶり。しかも前回は移動途中に一泊して、すぐ次の目的地に向かうという慌ただしいスケジュールだったので、今回はゆっくりと街を探索しようと楽しみにやって来ました。新宿から特急に乗り、甲府が近づくと車窓には葡萄畑が広がってきます。笹子峠のある山あいを抜けると、斜面に点々と葡萄畑が連なる様子はどことなくスイスの風景を思い起こさせ、都心からわずか1時間半ほどの距離ですが、旅情をかきたてられます。

山梨は日本ワインの揺籃の地。時代が明治に移り変わった頃、今から150年ほど前に日本で初めてワインの醸造が試みられた地ということで、今回は山梨産のワインを味わうのも旅の目的です。

 

名曲と美味しいお酒のマリアージュ(1)

 

初日は中学校部門。栃木県や山梨県といったこれまであまり聴いたことのない地区の団体を聴けるので、興味津々で朝早起きして会場入りし、2階席前方に座りました。2000名弱を収容する大ホールの音響も良好で、全体がとてもバランス良く聴こえてきます。特に印象に残った団体をご紹介しましょう。

演奏順に、北海道代表の札幌地区・札幌市立米里中学校。このバンドは北海道大会でも聴いて、好印象をもった団体です。流れがとても自然で《折鶴》(阿部勇一作曲)の目まぐるしく展開する音楽を澱みなく明快に表現した演奏でした。東京都代表の中学校・福生市立福生第二中学校は、独特な楽器配置で、どんなサウンドがするのだろうかと興味深く聴きました。17名と小編成の中でも人数が少ないバンドですが、一体感のあるサウンドで《天女の舞〜能「羽衣」の物語によるラプソディ》(松下倫士作曲)の世界観をじっくりと滋味深く描き出していました。西関東代表の埼玉県・さいたま市立大宮南中学校は《鳥之石楠船神〜吹奏楽と打楽器群のための神話(小編成版)》(片岡寛晶作曲)を演奏。この作品はタイトルにあるように打楽器が活躍する曲で、つい打楽器が頑張りすぎて全体のバランスが崩れがちなのですが、大宮南中学校はその辺りをセンスよくまとめていたと思います。

この日は夕方から都内で仕事のために午前中だけしか聴けず、後ろ髪を引かれる思いで、あずさに乗り込みました。

2日目、午前は小学生部門からスタートです。小学生の部には人数制限はなく、最小で26名、最大で64名の全12団体が出場しました。なお、小学生には全日本小学生バンドフェスティバルという全国大会が存在するので、本大会は最上位大会の一つと位置付けられます。どのバンドも好演を披露していましたが、とりわけ西関東代表の埼玉県・さいたま市立大宮南小学校の《ミュージカル「オペラ座の怪人」サウンドトラック・ハイライト》(A.L.ウェバー作曲)はダイナミックな演奏で惹きつけられました。場面ごとのコントラストもしっかりと描かれており、ミュージカルの長大な物語をぎゅっと凝縮したエキスを味わいました。東京都代表の小学校・武蔵野市立第三小学校吹奏楽団は《エンジェル・オブ・バトルフィールド〜クララ・バートンに捧ぐ》(樽屋雅徳作曲)を思い入れたっぷりに表現。小学生の音楽に対する情熱をひしひしと感じる演奏に、聴いているこちらまで胸が熱くなりました。

午後の高等学校部門はレベルの高い演奏が多く、選曲も多様で楽しめました。北陸代表の福井県・福井県立福井商業高等学校は《復興》(保科洋作曲)に真っ向勝負で挑んだ演奏が、清々しい。コンクールではついあれもこれもと盛り込みがちですが、余計なものを削ぎ落とした表現から生まれる良さを教えてもらいました。東関東代表の栃木県・栃木県立真岡高等学校は対照的にアイデアいっぱいで、良い意味で自己主張の強い個性的な演奏。僕のメモにはひと言「面白い!」と。《レッドライン・タンゴ》(J.マッキー作曲)という選曲もバンドの個性を生かすにはうってつけだったと思います。西関東代表の埼玉県・埼玉県立大宮光陵高等学校は《宇宙の音楽》(P.スパーク作曲)を30人ながら見事に演奏していました。一人ひとりが自分の役割を認識していることがわかる音楽で、先生の指揮との一体感も素晴らしかったです。

さて、ここからは酒の話。甲府はレトロな飲み屋横丁が残っており、前乗りした夜はそんな一軒にお邪魔しました。東京オリンピック(もちろん1964年のです)の年にできた「オリンピック通り」にあるそのお店では、山梨名物「鳥もつ」をアテに、地酒「春鶯囀」「大冠」「七賢」を飲み比べ。

 

名曲と美味しいお酒のマリアージュ(2)

 

山梨はワインだけでなく日本酒もうまい。ほろ酔いになったところで、翌々日のお店を物色がてら飲み屋街を歩きます。どこか懐かしさを感じさせる佇まいの路地の数々。ふと見たことのある看板を見つけ、そうか、5年前にこのバーに行ったなと思い出しました。酔っ払いの記憶はあてになりません。さらに探索し、隣の路地で古くからやっていそうなステーキ店を発見。看板には「ステーキ&ワイン」とあります。よし、明後日はここにしようと心に決め、その日はホテルへ戻りました。
 

 

~今月の一本~

 

ルミエール イストワール

名曲と美味しいお酒のマリアージュ(3)

 

甲府最後の晩餐は豪華にステーキと相成ったので、ワインは赤に。明治18年(1885年)創立の名門ワイナリー「ルミエール」のイストワール2019年を注文します。このワインはメルロー、ブラック・クイーン、カベルネ・フラン等の混醸で、重すぎずバランス良く食中酒にぴったり。熟練のマスターが焼き上げたステーキとともに美味しくいただきました。

 

 

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Text&Photo:野津如弘

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