第三十一回 吹奏楽コンクールと各地の銘酒・名居酒屋【名曲と美味しいお酒のマリアージュ】

 

音楽を気軽に楽しんでいただくため、毎回オススメの曲とそれに合わせたお酒をご紹介する連載【名曲と美味しいお酒のマリアージュ】。第三十一回でご紹介するお酒はラン・セッカのワイン「コヤチ パストゥグラン」です。

今年も夏の吹奏楽コンクール・シーズンが終わり、後は全国大会を残すのみとなりました。審査や一聴衆として各地を訪れ、熱演の数々を聴くのも楽しみですが、終演後はその余韻に浸りながら盃を傾けるのも、また楽しみ。

今回は、支部大会で出会った名演と銘酒・名居酒屋をご紹介しようと思います。吹奏楽コンクールでは、全国が北海道・東北・東関東・西関東・東京・東海・北陸・関西・中国・四国・九州の11支部に分かれており、全国大会(小編成には全国大会がなく、支部によっては東日本大会といった上位大会もありますが、この支部大会が最上位大会の場合もあります)へと駒を進める代表を選ぶ大会がこの支部大会で、各地から選ばれた強豪バンドが競い合う激戦区でもあります。今年は中国・関西・北海道の3支部の演奏全て(関西は中・高A編成のみ)を聴きました。

中国大会は岡山県の倉敷市民会館で開催されました。倉敷駅から美観地区を抜けた先にあるので、徒歩で会場へ向かう場合はちょっとした観光気分にも浸れます。倉敷を訪れるのは『第65回全日本吹奏楽コンクール』大学の部、職場・一般の部が開催された2017年以来です。その時は、昼食を取りに会場向かいのお店に入ったら大混雑で、午後一番目の演奏に間に合わなかったという失態を犯したので、今回は事前にコンビニと弁当屋さんの見当を付けて臨みました。中国支部大会を聴くのは初めてなので、期待もひとしお。言うまでもなく、終演後の居酒屋の下調べも入念に行なっての倉敷入りです。

全日本吹奏楽コンクールには中学50名、高校・大学55名、職場・一般65名以内という規定がありますが、特に中学生の部では規定上限までメンバーがいる団体は限られており、中国支部においても昨今の少子化の影響を色濃く感じました。そんな中、印象的だったのは高校小編成の広島桜が丘高校の《秘儀Ⅱ》(西村 朗作曲)。作品の世界観を先生と生徒で共有した見事な演奏でした。

 

名曲と美味しいお酒のマリアージュ(1)

 

夜は瀬戸内の魚を求めて、倉敷デパートへと向かいます。「デパート」と名前がついていますが、百貨店ではなくレトロな商店街で、居酒屋も多く入居しています。赤提灯に釣られて一軒の居酒屋へ。ホワイトボードの本日のおすすめにマナガツオの刺身を見つけ、迷わず注文。マナガツオは足がはやい魚なので、刺身で食べられるのは地元ならでは。他にもウツボの唐揚げがあったのでこちらもあわせてお願いしました。燗酒を頼むと、香住鶴とのこと。酸のしっかりとした但馬の銘酒でコッテリとしたウツボの唐揚げを流し込みます。岡山名物のママカリの酢漬けを口直しにお銚子をもう一本。大満足の夜となりました。

翌週は尼崎市のあましんアルカイックホールで行われた関西大会へ。こちらも数年ぶりに訪れましたが、尼崎に泊まるのは初めてなので、どんな酒場と出会えるか心躍らせての訪問となりました。

関西の中学校A編成は出場団体が30校と大変多く、選曲も聴き応えのある作品揃いでした。とりわけ大阪市立鯰江中学校の自由曲・バレエ音楽《ダフニスとクロエ》第2組曲より夜明け、全員の踊り(ラヴェル作曲)は圧巻の演奏! 興奮冷めやらぬまま、夜の街へと繰り出します。ホール最寄りの阪神尼崎駅の北側には大きなアーケード街があり、さらに北には歓楽街が広がっています。どこに入ろうか店を探しつつ散策していると、大きな白い看板に「正宗屋」と書かれた建物がドーンと飛び込んできました。

 

名曲と美味しいお酒のマリアージュ(2)

 

もしかすると、これは僕が前に紹介した(名曲と美味しいお酒のマリアージュ第十四回)大阪の正宗屋と関係があるのかなと思い、入店。混んではいたものの、なんとか座れました。酒も大阪と同じ白鹿で、座るや否や「お飲み物は?」と訊かれるのも一緒。ぬる燗を頼み、メニューからはどて焼きを注文。味付けはこちらのほうがややあっさりしていましたが、お馴染みの味わいを堪能しました。その後、もうちょっと軽く飲もうと商店街の中の立ち飲み屋へ。店内ではちょうど巨人阪神戦のテレビ中継が流れており、6-9で阪神が勝つと大いに盛り上がり、尼崎の夜も更けていきました。

その翌週は北海道大会を聴きに札幌へ。北海道大会は響きの美しい札幌コンサートホール Kitaraで開催されています。僕は毎年、避暑がてら訪れており、8月末から9月頭となるとだいぶ涼しくなっていたのが、今年は猛暑! とはいえ、夜になると気温は下がるのがせめてもの救いでしょうか。4日間にわたって小学校の部から職場・一般の部まで150団体の演奏を堪能しました。Kitaraの響きのおかげか、朝から晩までずっと聴いていても疲れないのが不思議です。以前は地域による演奏レベルの差が大きかった北海道ですが、この数年はその差が良い意味で縮まっているように感じています。
 

 

~今月の一本~

 

ラン・セッカ コヤチ パストゥグラン

名曲と美味しいお酒のマリアージュ(3)

 

夜はワインバーへ。温暖化の影響で北海道のブドウの完熟度が上がり、濃厚なワインが増えています。KOYACHI 2021 Passetoutgrainは余市にあるラン・セッカ・ワイナリーのドメーヌ物。ピノ・ノワール2/3とツヴァイゲルト1/3の混醸なので、今までの北海道のワインだとちょっと青臭いかなと心配しましたが、熟した果実感があり美味。もう一杯は三笠市の宮本ヴィンヤードのピノ・ノワールです。こちらはより酸がしっかりしており、引き締まった印象でした。

 

 

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Text&Photo(正宗屋&ワイン):野津如弘

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